第7話 (閑話)没落貴族令嬢と獣人村村長の娘とエルフ代表の娘
sideアン
『借金奴隷になる予定の子の面倒をみてくれ』と言われた時、ついにやってしまったのだと思いました。
私が働くのは王宮です。間違っても『借金奴隷』になる子などいるはずはなく、しかも、その面倒をみろって?
王様は聖女召喚に執着していました。魔物が活性化する今、聖女で一発逆転は誰もが1度は考えて、その後馬鹿馬鹿しさに笑ってしまうレベルのおとぎ話です。
いや、嘘だと言うわけでなく、伝え聞く成功率が1割以下なので。
王妃様も、王子様も、王女様も、口を揃えて『無駄だから止めろ』と言いましたが…
多分やってしまったのでしょう。
で、予想通り大失敗した、と。
夢みがちな王様と違い、王妃様もお子様方も理性的なようですが。
彼らは効率から判断しているだけで、王様含め、誰1人『呼ばれる』側の苦悩には気付いていないようでした。
他種族の方から、『人族は寿命が短い分物事に対し強引でせっかち、優しさがない』と言われますが、その典型です。
私は…
生まれた場所から強引に引き離される、その悲しみを知っています。
大切な人から離れる悲しみも。
私の家は使用人すら雇えない没落貴族で、流行り病で両親を失い行き場を無くしていたところに、王宮のメイドの募集がありました。
王宮のメイドは、高貴な者と日常的に接するため、ある程度の家柄の子を選ぶのです。
もう誰もいないとは言え、家を離れたくはなかったのですが…
妥協して今に至ります。
だから、召喚者の彼女もさぞ心細いだろうと、指定された部屋に急ぐと。
「あ?」
「あ、ごめん。こんな場所初めてだから。」
調度品を見たり、ドレッサーを開けたり、思い切り部屋を探検していた女の子と目が合いました。
黒髪黒目の、この国には珍しい見た目。整った顔立ちなのに、ズボンとかなりゆったりした上着であまり女性らしい格好ではありません。
「私、葵海里。」
名乗って、握手を求めてきた彼女は、びっくりするくらい自然体でした。
貴族以外家名を持たないと伝えると、
「じゃ、ミサトで。よろしく、アンさん」とニコニコ笑う。
能天気ぶりが大丈夫かと思いましたが、共に過ごすうちにわかります。
彼女は素直で優しい子です。
美味しいものは美味しいと言うし、何かしてもらえばありがとう。
飾り気もない。
王宮内の他人を見下すような人間関係に辟易としていたため、私には新鮮に映りました。
ミサトが王宮内で唯一頼んだことは、着替えの手配だけです。
本来なら私が気付かなければいけないのに、
「ありがとう、アンさん」と喜んでくれる。
こう言う人だからか?
馬車旅でもすぐに仲間と打ち解けていました。
人たらしとからかったが…
多分私もたらされた1人ですよね。
いつかまた、会いに行こうと思います。
借りた服も返さなきゃ、ですし。
sideニア
『奴隷に行ってくれ』と言われた時、仕方ないにゃと思ったにゃ。
村はにゃかにゃか無いほどの不作で、こう言う時は誰かが奴隷に行く。当たり前の展開で、ただ順番が巡ってきた、そんにゃ感じ。
ただ、村から出ることは不安だったにゃ。
私は村からほとんど出たことがにゃかった。出なくても暮らせるし、行商には人族がこちらに来る。出かける必要は全くにゃかった。
それに人族はすぐ騙そうとする。
難癖を付けてきて、作物を買い叩こうとしたり、嫌な奴らにゃ。
「寿命が短いから生き急いでいるんだ」と父は言ったが…
私が働く場所は亜神様の工場で、他と比べても待遇がよく評判が良いにゃ。一生懸命選んでくれたとわかっていても、人族含め多種族混成なことに…
若干の不安を残したまま馬車に乗ると、
「うわ…(獣人さんだぁ❤️)」
驚いたように目を見開く、黒髪黒目の人族がいた。
彼女は召喚者だと聞いていたにゃ。
「私、ミサト」と、自分から手を差し出す気さくさで、
「えっ?どういうこと?何で村の借金をこの子が‼️」と、私の代わりに怒ってくれた。
当たり前にゃ、よくあることにゃと、口で説明しながらも…
私は少し嬉しかった。
いや、嬉しいらしい、自分の本音にようやく気付いた。
私はどうやら怒っていたみたいにゃ。
『何で私が?』と、心の奥で苛立ちながら、物わかりのいい子を演じていた。
歪になりかけた私を助けてくれた、人族のミサトを大好きになったのは、こう言う訳だったのにゃ。
sideエル
私が奴隷に行くと決まった時、実は少しホッとしていた。
私達エルフにははっきりとした序列があり、髪の色が金であるほど、ハイエルフと呼ばれ一目おかれる。
代表である私の父は、ハイエルフに繋がるものだがそのものではない。
私だけが先祖帰りと言おうか、完璧なハイエルフとして生まれた。
子供の頃から腫れ物のように扱われ、自分でもどうしていいか分からなくなっていた。
奴隷の仲間に宿屋で会った。
人族の子が、
「私、ミサト」と、なんの気負いもなく手を差し出す。
少し驚いた。
部屋は少し寒かった。
小さく震えていることに気が付いてくれ、
「じゃ、今日も疲れたから寝よう」と、早めに布団に入れてくれた。
馬車の中では、
「エル、おいで」と、自分の服の上に座らせてくれて。
特別扱いはしない。
その上で優しく気遣ってくれる、初めて出会うタイプだった。
召喚者と言っていた。
私が知る、身勝手で自分本意なこの国の人族とも違う。
ミサトと、人懐っこい獣人のニアと始まる新生活が楽しみになるくらいは、私は毎日に疲れていたらしい。
まったく、『奴隷』なのにね。
あ、でもミサトは人族で早く死んじゃうんだよな。
魔法は得意だし、長生きか不老の呪文でも探そうかなぁ。
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