第5話 亜神様と奴隷考

 その夜、夕食を食べながらカナンに聞いた。

 ちなみに、夕食はパンとスープ。パンは異世界名物カチカチパンではなく、普通に柔らかい。

 パンとスープは食べ放題。スープはミルクスープだ。

 クリームシチューではなく、小麦粉は使っていない、ミルク煮に近いもの。根菜やたっぷりの肉が入っている。肉は角うさぎ。当然魔物。

 国境の町では魔物が活性化しているとはいえ、壁からほど近くでとれる食用の魔物はガッツリ利用しているそうだ。

 うん、考えないほうがいい。

 3日連続行動食だった身としては、涙が出るほどうまかった。

 ここは工場の食堂で、カナンはなんと、紡績工場を経営しているそうだ。

 ニアの謎説明、

 「指先でこうやって…」云々は、糸を作る過程の説明だろう。

 綿花から糸をとる、糸を紡ぐ、糸を布に織るの3工程を行っている。

 異世界はすべて家内制手工業、家庭の手作りのイメージだったと言うと、

 「そりゃないな」と、笑われた。

 大量生産のシステムがなければ、買える服はすべて高価な1点ものとなる。ならば庶民は服を買えなくなり、すべて作り出さねばならない。

 「と、なると、魔物の前で縫製の甘い下手糞な服に悩まされて負けたり、母の形見の服を破きたくない一心で冒険者をやめたり、いろいろ起こるぞ。」

 なるほど、カナンの言うとおりだ。

 カナンは奴隷の労働力を使い、コストを抑えた布を制作、異世界にファストファッションを提供している。

 ちなみに奴隷には2種類ある。

 1つは犯罪奴隷で、彼らには逃げられないよう魔法の首輪が装着される。

 そう言えば、この世界、やっぱり魔法、あった。エルは得意だというし、いつか見せてもらおうと思う。

 逃げれば首が締まる魔道具を付けられ、刑期を全うするまで鉱山で働かされる。

 過酷なブラック労働だし、多くが途中で亡くなるらしい、合掌。

 そして今1つは借金奴隷。融資を受けた見返りや、すでに焦げ付いて返せない金銭の代わりに自由を奪われ、働かされる。

 その中で最も過酷でブラックなのが娼館。男性でも一定の需要があるし、感情さえ殺せば早めに借金が返せる。ただ病気の危険もあるし、時に残酷な客に当たったりする。借金のために命懸けなのがこのケースだ。

 ただ、聞いたところ、人族が選ぶケースが多いという。

 多分その寿命の関係上、借金の意味が他種族より重くのしかかるのが人族だ。

 そしてそれ以外を受け入れているのが、カナンの工場のような場所だった。

 毎日一定の労働をする。

 一気に借金はなくならないが、時間をかければ必ず減る。

 だから労働もホワイトで、食堂・寮完備。週に1回完全休養日があり、休みの日には銀貨5枚の小遣いも出る。

 30年の労働で大金貨100枚を返すのだ。

 考えてみると…

 大金貨100枚って、たぶん1億円くらいだ。衣食住の食と住が保証され、若干の小遣いももらって1億円。30年かければ多分いける。

 「え?じゃあ、私の借金って?」

 勇気を出して聞いてみると、

 「アルダの馬鹿坊主は、大金貨1000枚くらいかけたらしいが。」

 王様、馬鹿坊主扱いかよ。

 え?10億?

 「まあ、人族のお主じゃ、一生かけても返せないから大金貨200枚で引き取ってきたぞ。」

 結局2億。1億を30年かける工場で、つまり60年?

 「ええっ?それ、人生ギリギリじゃん‼」

 騒ぐ私に、

 「だから殺さないよう大切にするぞ。きっちり働けよ」と微笑まれた。

 亜神様、怖いです。

 「ただ60年の借金奴隷は、お主が頑張れば短くなるぞ。休みの日も働くとか、冒険者になって魔物と戦い臨時収入を得るとか、何か工場にとってプラスとなる実績を上げれば相当の評価はするぞい。」

 これは…

 かなりなムリゲーなのに、頑張るしかない。

 ちなみに元の世界に戻れる可能性を聞くと、今までに帰れた人は1人もいないと。

 うん。

 知ってた…

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