第2話 借金奴隷、獣人のニアちゃん

 馬車は途中休憩を挟みながら、結局丸1日移動した。

 休憩は、食堂なのか宿屋なのか、いわゆるトイレ設備のある場所だ。サービスエリアか道の駅のポジションだろう。

 男女混合のグループなので(御者2名と警護らしい兵士1名は男性)気を使ったということか、この世界、文化的にはまともらしい。

 昼頃停まった店で、アンさんが買ってくれたのが携帯食料。

 旅の間は全てこれだと説明される。

 カロリー〇イト状のブロック4本と、竹のようなコップに入った水を渡された。

 見かけ以上の重量感。

 味は…

 薄甘くてバサバサの触感。水は必須。

 「相変わらず行動食は…」

 アンさんの微妙な表情で、これがカロリー重視、持ち運び重視、味は2の次なものと知る。

 食うしかないから食ったけど、平常時なら間違っても食べない代物だった。

 夕方村に着いた。

 「今晩はここに宿をとります」と、アンさん。

 移動、1日じゃ終わらないらしい。

 部屋に入り(アンさんと私で1室、兵士と御者で1室だ)、微妙な行動食を食べながら、いろいろ教えてもらった。

 この国の名前は『アルハイム』。

 うん、聞いたことのない名前だね。やっぱ異世界。

 王様の名前は『アルダ・アルハイム・6世』。

 うん、これはどうでもいい。

 アルハイムは南と東は海(大陸の南東部に位置している)、北は森林、西は砂漠に囲まれた国だ。

 国土以外には魔物がいる。

 うーん、しみじみ異世界だ。

 近年この魔物が活性化し強力になっている。

 ゆえに、アルダ国王は魔物を浄化できる聖女を召喚しようと試み、王妃と王子、王女、有力貴族達の反対を押し切る形で召喚、見事失敗した。

 で、いじけた、と。

 それは私のせいじゃない。

 アルハイムの王都は国の中央、へその部分。北と南には馬車で3日程、西と東には5日程かかる。

 今は北の端を目指している。

 地獄の馬車旅、あと2日続くらしい⤵

 北には、私が奴隷として働く場所があるそうで、そこまで送り届けるのがアンさんの仕事らしかった。

 「奴隷って、何をするんですか?」

 肉体労働は苦手だし(体育は万年10段階の4だった)、別の意味の肉体(を使ったHな)労働はもっと嫌だ。

 不安がる私に、

 「行けばわかりますよ」と、微笑むアンさん。

 短い付き合いながらわかっている。彼女、普通にいい人だ。

 異世界から召喚された無能力者を蔑まず、奴隷なんてマイナスの役割を押し付けられた、その事を哀れまず、馬鹿にせず。

 だからこれは、『行ってみてのお楽しみ』という意味だろうと分かっていたが…

 いやいや、なかなか楽しめるもんじゃないよ。

 この日はそのまま就寝した。


 翌朝、また行動食をモソモソ食べて、宿屋を出ると…

 超絶お約束なファンタジー世界が広がった。

 さすがに弱っていたのか、昨日は気づかなかったけど。

 ここ、獣人の村じゃん‼

 ひょーっ、テンション上がるぅ‼

 馬車に移動する時、村民は朝のルーティーンを始めていた。

 水を汲んだり、作物を収穫したり。

 あー、子供が走り回っている。猫耳、超可愛い。

 どうやらここは、獣人と言うより猫獣人の村で、大人も子供も、果ては老人まで猫耳付き。短めのスカートから尻尾、ズボンをそれ用に加工しているのだろう、男の人にも尻尾、尻尾。

 うわぁ…

 触りたい…

 触ったら失礼かなぁ。

 後ろ髪引かれる思いで馬車に乗った。

 馬車旅はあと2日。

 今回は最初から、座布団代わりにダウンをひいた。

 アンさんもエプロンを座席にひく。

 と、急に3人目が乗り込んできた。

 「え?」

 驚いた。

 同じ年くらいに見える、猫獣人の女の子だ。

 八重歯(って言うか犬歯だね)がのぞく明るい笑顔。人懐っこくて目が大きい。

 短めのスカートから白く長い尻尾が見える。

 髪の毛も白、猫耳も白。

 白猫獣人参上、である。

 「ミサトさん。」

 アンさんが説明する。

 「彼女も同じ場所に行きます。村の借金の代わりですね。猫獣人のニアさん、あなたと同じ19歳です。」

 へ?

 なんだって?



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