②
時間は少し巻き戻る。
白崎部長に「黒原さんの部屋からメモ用紙とメモホルダーを持って来て欲しい」と頼まれた僕は、すぐに彼女の部屋へと向かう。
ドアをノックすると「はい」という返事が聞こえた。
「雨音です。少し良いですか?」
静かにドアが開く。顔を出した黒原さんに僕は言った。
「話があります。中に入っても大丈夫ですか?」
「はい、どうぞ」
黒原さんはニコリと微笑み、僕を部屋の中に入れてくれた。
棚の上に、メモ用紙とそれを収めているメモホルダーが置いてあるのを確認する。あれをなんとかして白崎部長に届けないといけない。
黙って持ち出そうかと考えたけど、黒原さんは僕をじっと見ている。この視線の中、気付かれずに持ち出すのは不可能だ。
意を決して、僕はメモ用紙を指差した。
「あの、黒原さん。あそこに置いてあるメモ用紙を貸してくれませんか?できればメモホルダーごと」
黒原さんはメモ用紙を見る。
「あれをですか?」
「はい」
「雨音さんの部屋にあるものは使わないのですか?」
「えっと……僕の部屋には置いてなくて……」
「雨音さんの部屋を訪ねた時に、メモ用紙があるのを見ました」
「えっ!」
しまった。見られていたのか!ま、まずい。何か上手い言い訳を考えないと!
「えっと……それは……あの……」
駄目だ。全く言葉が出ない。どうすれば良いんだ?このままじゃ……。
「雨音さん」
「は、はい!」
「白崎さんに頼まれましたか?」
「えっ?」
「白崎さんに私の部屋からメモ用紙とメモホルダーを持って来るように頼まれたのではありませんか?」
「——ッ!」
心臓が大きく跳ねた。
「ど、どうしてそれを……あっ!」
僕は咄嗟に自分の口を押さえる。だけどもう遅い。
「雨音さんは正直ですね。そういう所も大好きです」
黒原さんはクスリと笑う。
「だとすると、白崎さんは私を選んだというわけですね」
「選んだ?」
意味が分からず首を傾げていると、黒原さんはこう言った。
「犯人は白崎さんです」
「……えっ?」
「山本さん、飯田さん、そして伊達さん。三人の命を奪ったのは、白崎さんです」
あまりにも衝撃的な言葉。僕は口を開けたまま固まった。
「白崎部長が——犯人?今、そう言いました?」
「はい」
黒原さんは首を縦に振る。聞き間違いかと思ったが、そうではないらしい。
「な、何を……言ってるんですか……そんなわけ……」
「いいえ、間違いありません。犯人は白崎さんです」
黒原さんの顔は真剣そのものだ。冗談を言っているとは思えない。
白崎部長は、黒原さんの部屋からメモ用紙とメモホルダーを持って来るよう僕に頼んだ。それが証拠になるからと。
白崎部長は黒原さんを犯人だと思っている。だけど、その黒原さんは白崎部長が犯人だと言う。これはどういう事だ?
僕は混乱した。このまま黒原さんの話を聞いて良いのか?それとも、強引にでも部屋にあるメモ用紙とメモホルダーを持ち出して、白崎部長に見せた方が良いのか?
正しいのはどっちだ?
「——教えてください」
迷った末、僕は黒原さんの話を聞く事にした。
「教えてください。どうして、白崎部長が犯人なんですか?」
僕が尋ねると、黒原さんはゆっくりと口を開く。
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