⑥
深夜、誰にも気付かれずに抜け出した私は、ロープを手に最後の標的の元へと向かう。
——あいつさえ居なくなれば、あの人は私のものになる。
とても楽しみだ。あの人が私のものになったら何をしよう?
二人で食事に行ったり、映画を観に行ったり、買い物をしたり、海やプールで一緒に泳いだり、遊園地で遊んだり、旅行に行ったり、夏祭りに行ったり、本屋を巡ったり、ゲームをしたり、手を繋いだり、キスをしたり、家に泊まったり……色々な事をしたい。
あの人は奥手だから、きっと自分からは動かないだろう。なので、私の方から積極的にアピールする必要がある。
ああ、楽しみだ。楽しみだ。楽しみだ。楽しみ過ぎて今から笑みが止まらない。
楽しい未来を想像しながら私はそっとドアの鍵を開け、中へと入る。標的は背を向けていた。チャンスだ、気付かれる前にケリを付ける。
私は持っていたロープを標的の首に掛け、渾身の力を込めた。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。私はロープを絞め続ける。
「——?」
おかしい。違和感を覚えた。飯田美琴を殺した時とあまりに違う。
手から伝わる感触もそうだが、一番は抵抗の無さだ。首をロープで絞められたら普通、飯田美琴のように激しく抵抗する。だけど、こいつは全く抵抗しない。どう考えても変だ。
私は標的の前に回り込んで、その顔を確認する。
「これは……!」
愕然とした。
私がロープで絞めていたもの、それは人ではなく……ただのマネキンだった。
「やはり、そうでしたか」
背後から声がした。慌てて振り返る。そこには殺そうとしていた標的が立っていた。
「犯人は貴方だったのですね——白崎さん」
黒原蕾は感情の込もっていない声で、私の名を口にした。
「ど、どうして……」
私は混乱する。一体何が起きたのか?
必死に頭を働かせていると、さらに三人が物陰から現れた。
「白崎さん……」
「まさか、本当に貴方だったなんて……」
勝也将、田沼弥生は驚いた表情で私を見る。
「てめぇ……!」
春日意次は怒りの籠った目で私を見ている。
そして、最後に現れた人物が黒原蕾の隣に立つ。その人は今にも泣きだしそうな顔で私を見ていた。
「……白崎部長」
雨音君はたった一言、絞り出すような声でそう言った。
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