⑤
「お前ぇえええ!」
黒原さんが犯行を認めた瞬間、春日さんは彼女に飛び掛かろうとした。僕は春日さんを羽交い締めにして止める。
「駄目です!春日さん!」
「離せ!飯田の……飯田の仇を取るんだ!」
春日さんの力はまるで猛獣のように強い。まずい、このままじゃ……。
「ふん!」
白崎部長が強烈な突きを春日さんの腹部に叩き込んだ。春日さんは「がはっ」と呻き、意識を失う。
「これでしばらくは目を覚まさないだろう、さて……」
白崎部長は黒原さんを見る。
「黒原さん、何か言いたい事はあるかな?」
「……」
「どうして、三人を殺したのか。動機を教えてくれないかい?」
「……」
「——そうか」
無言を貫く黒原さんに、白崎部長は肩を竦める。
「悪いけど、君をこのままにしてはおけない。救助が来るまでの間、地下室に居てもらうよ。ああ、心配しなくても良い。食べ物はちゃんと用意するし、地下室にはトイレもある。救助が来たらちゃんと出してあげるから」
白崎部長は黒原さんを地下室まで連れて行くと、中に入るように言った。部長の指示に、黒原さんは素直に従う。黒原さんを地下室に入れると、部長は扉を閉じた。
「勝也さん、鍵を」
「は、はい!」
勝也さんによって、地下室の扉に鍵が掛けられる。これで黒原さんは逃げられない。
その後、僕と勝也さんで気絶した春日さんを部屋まで運び、ベッドに寝かせた。
春日さんが目を覚ましたら、黒原さんに危害を加えないように、ちゃんと話をしなければならない。
春日さんを運ぶと、勝也さんはそのまま自分の部屋に戻った。田沼さんも「なんだか疲れました」と言い残して部屋へと戻る。
「……終わったんですね」
「うん」
白崎部長は大きな息を吐く。
「でも、まだ私達が助かったというわけではない。外にはツキノワグマがたくさんうろついている。救助が来るまで油断は出来ないね」
「……そうですね。すみません」
「まぁ、でも今くらいは気を緩めても良いだろう」
部長は僕の肩にポンと手を置いた。
「お疲れ様、雨音君。よく頑張ったね」
「……僕は何もしてませんよ」
「いや、君はよく頑張ったよ」
白崎部長は僕を褒める。
「君が居なかったら事件は解決しなかった。ありがとう」
「いえ……別に」
僕は何とも言えない表情をする。そんな僕を見て白崎部長は「照れる必要は無いよ」と言って笑った。
「じゃあ、僕も部屋に戻りますね」
「なぁ、雨音君」
僕の背中に、白崎部長は声を掛ける。
「この島から生きて帰れたら、何がしたい?」
「えっ?」
「島に来てから悲しい事ばかり起きたからね。何か楽しい未来の話をしよう」
部長は柔らかな笑みを浮かべる。
「生きて帰る事が出来たら——君は何をしたい?」
「僕は……」
真っ直ぐ視線を向けてくる白崎部長に、僕は自分の正直な気持ちを伝えた。
「僕は『ミステリー調査同好会』を続けたいです」
飯田先輩はもう居ない。だからこそ、先輩が居た場所を守りたいと思った。飯田先輩が愛したこの人と一緒に『ミステリー調査同好会』を続けたいと思ったんだ。
「……そうか」
白崎部長は、静かに頷く。
「私も君と同じ気持ちだ。これからも君と一緒に『ミステリー調査同好会』を続けていきたいよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます