「お前ぇえええ!」

 黒原さんが犯行を認めた瞬間、春日さんは彼女に飛び掛かろうとした。僕は春日さんを羽交い締めにして止める。

「駄目です!春日さん!」

「離せ!飯田の……飯田の仇を取るんだ!」

 春日さんの力はまるで猛獣のように強い。まずい、このままじゃ……。

「ふん!」

 白崎部長が強烈な突きを春日さんの腹部に叩き込んだ。春日さんは「がはっ」と呻き、意識を失う。

「これでしばらくは目を覚まさないだろう、さて……」

 白崎部長は黒原さんを見る。

「黒原さん、何か言いたい事はあるかな?」

「……」

「どうして、三人を殺したのか。動機を教えてくれないかい?」

「……」

「——そうか」

 無言を貫く黒原さんに、白崎部長は肩を竦める。

「悪いけど、君をこのままにしてはおけない。救助が来るまでの間、地下室に居てもらうよ。ああ、心配しなくても良い。食べ物はちゃんと用意するし、地下室にはトイレもある。救助が来たらちゃんと出してあげるから」

 白崎部長は黒原さんを地下室まで連れて行くと、中に入るように言った。部長の指示に、黒原さんは素直に従う。黒原さんを地下室に入れると、部長は扉を閉じた。

「勝也さん、鍵を」

「は、はい!」

 勝也さんによって、地下室の扉に鍵が掛けられる。これで黒原さんは逃げられない。


 その後、僕と勝也さんで気絶した春日さんを部屋まで運び、ベッドに寝かせた。

 春日さんが目を覚ましたら、黒原さんに危害を加えないように、ちゃんと話をしなければならない。

 春日さんを運ぶと、勝也さんはそのまま自分の部屋に戻った。田沼さんも「なんだか疲れました」と言い残して部屋へと戻る。

「……終わったんですね」

「うん」

 白崎部長は大きな息を吐く。

「でも、まだ私達が助かったというわけではない。外にはツキノワグマがたくさんうろついている。救助が来るまで油断は出来ないね」

「……そうですね。すみません」

「まぁ、でも今くらいは気を緩めても良いだろう」

 部長は僕の肩にポンと手を置いた。

「お疲れ様、雨音君。よく頑張ったね」

「……僕は何もしてませんよ」

「いや、君はよく頑張ったよ」

 白崎部長は僕を褒める。

「君が居なかったら事件は解決しなかった。ありがとう」

「いえ……別に」

 僕は何とも言えない表情をする。そんな僕を見て白崎部長は「照れる必要は無いよ」と言って笑った。

「じゃあ、僕も部屋に戻りますね」

「なぁ、雨音君」

 僕の背中に、白崎部長は声を掛ける。

「この島から生きて帰れたら、何がしたい?」

「えっ?」

「島に来てから悲しい事ばかり起きたからね。何か楽しい未来の話をしよう」

 部長は柔らかな笑みを浮かべる。

「生きて帰る事が出来たら——君は何をしたい?」

「僕は……」

 真っ直ぐ視線を向けてくる白崎部長に、僕は自分の正直な気持ちを伝えた。

「僕は『ミステリー調査同好会』を続けたいです」

 飯田先輩はもう居ない。だからこそ、先輩が居た場所を守りたいと思った。飯田先輩が愛したこの人と一緒に『ミステリー調査同好会』を続けたいと思ったんだ。

「……そうか」

 白崎部長は、静かに頷く。


「私も君と同じ気持ちだ。これからも君と一緒に『ミステリー調査同好会』を続けていきたいよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る