調査の結果、伊達さんの部屋から飲み物と缶詰などの食べ物が少し見付かった。でも、どの飲食物にもナッツは含まれていない。

「調査はここまでにしようか」

 部長の言葉で、伊達さんの部屋の調査は終わった。

「雨音君」

「はい」

 白崎部長に呼び止められる。

 部長は僕に耳打ちすると、その場から去った。

「雨音さん、部屋まで送ります」

 今度は黒原さんに声を掛けられる。心配だからと、黒原さんは僕の部屋の前まで付いて来た。

「よろしければ、一緒に居ましょうか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうですか。私は自分の部屋に居ます。何かありましたら、いつでも訪ねてください」

 黒原さんは自分の部屋へと戻った。

「……よし」

 僕はこっそり部屋を抜け出すと、白崎部長の部屋へと向かう。


「やぁ、お疲れ。入り給え」

 ドアをノックすると、白崎部長は僕を部屋の中に入れた。

「どうしたんです?誰にも見付からないように来てくれだなんて」

「実は見せたいものがあるんだ」

「見せたいもの?」

「これだよ。伊達さんの部屋でこんなものを見付けた」

 部長が手にしているのは、皺くちゃになっている一枚の紙だった。その紙を見て、思わず絶句する。

「これって……」

「そう、この紙こそが伊達さんが外に飛び出した理由さ。使

 犯人……白崎部長は確かにそう言った。

「じゃあ、やっぱり伊達さんも殺されたんですね?」

「ああ、そうだ」

 それから白崎部長は、犯人がどのようにして伊達さんを殺したのか、自分の推理を教えてくれた。

「酷い……」

 それは、あまりにも残酷な殺害方法。僕は自然と拳を握っていた。

「雨音君、頼みがある」

「何ですか?」

「今から言う人物の部屋から、ある物を持って来て欲しいんだ」

 部長はその人物の名前と、部屋から持って来て欲しい物を口にした。

「なんで、そんな物を?」

「もしかしたら、それに犯行を裏付ける証拠が残っているかも知れないんだ」

「——ッ!本当ですか?」

「ああ、本当だ」

「じゃあ、犯人は『あの人』なんですか?」

「私の考えが正しければね」

 部長は僕に向かって、両手を合わせる。

「私では警戒される。あの人の部屋から『あれ』を持って来れるのは君だけだ。頼まれてくれるかい?」

 事件解決のためならなんでもすると誓った。それくらいやる。

「分かりました。やります」

「ありがとう。頼んだよ」

 白崎部長の部屋を出た僕は、その人物の部屋へと向かう。

 ドアをノックすると「はい」という返事が聞こえた。

「雨音です。少し良いですか?」

 静かにドアが開く。顔を出したその人に僕は言った。

「話があります。中に入っても大丈夫ですか?」


 一時間後、僕は部長の所に戻って来た。

「ご苦労様。随分、時間が掛かったね」

「すみません、つい話し込んでしまって……」

「顔色も悪いようだけど、大丈夫かい?」

「大丈夫です。それよりも、これ……」

 僕は『あの人』の部屋から持って来た物を部長に渡す。

「雨音君、よくやった!」

 部長は『それ』を見ると、満足そうにニヤリと笑った。

「山本さん、伊達さん、そして飯田君。三人を殺した犯人は、やはりあの人だったよ」

「本当ですか⁉」

「ああ!」

 白崎部長は力強い声で言った。

「雨音君、全員を呼んで来てくれ。皆の前で事件の真相を話す」


 集められた四人の反応は様々だった。

「犯人が分かったというのは本当ですか?」

 勝也さんは驚愕し、

「本当に犯人が居るんですか?」

 田沼さんは困惑し、

「犯人は誰なんだ!」

 春日さんは血走った目で叫び、

「……」

 黒原さんは静かに微笑んでいた。

「はい、犯人は……」

 白崎部長は役者のように大きく手を振る。


「私達、六人の中に居ます!」

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