⑦
調査の結果、伊達さんの部屋から飲み物と缶詰などの食べ物が少し見付かった。でも、どの飲食物にもナッツは含まれていない。
「調査はここまでにしようか」
部長の言葉で、伊達さんの部屋の調査は終わった。
「雨音君」
「はい」
白崎部長に呼び止められる。
部長は僕に耳打ちすると、その場から去った。
「雨音さん、部屋まで送ります」
今度は黒原さんに声を掛けられる。心配だからと、黒原さんは僕の部屋の前まで付いて来た。
「よろしければ、一緒に居ましょうか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうですか。私は自分の部屋に居ます。何かありましたら、いつでも訪ねてください」
黒原さんは自分の部屋へと戻った。
「……よし」
僕はこっそり部屋を抜け出すと、白崎部長の部屋へと向かう。
「やぁ、お疲れ。入り給え」
ドアをノックすると、白崎部長は僕を部屋の中に入れた。
「どうしたんです?誰にも見付からないように来てくれだなんて」
「実は見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
「これだよ。伊達さんの部屋でこんなものを見付けた」
部長が手にしているのは、皺くちゃになっている一枚の紙だった。その紙を見て、思わず絶句する。
「これって……」
「そう、この紙こそが伊達さんが外に飛び出した理由さ。犯人はこの紙を使って伊達さんが外に出るように操ったんだ」
犯人……白崎部長は確かにそう言った。
「じゃあ、やっぱり伊達さんも殺されたんですね?」
「ああ、そうだ」
それから白崎部長は、犯人がどのようにして伊達さんを殺したのか、自分の推理を教えてくれた。
「酷い……」
それは、あまりにも残酷な殺害方法。僕は自然と拳を握っていた。
「雨音君、頼みがある」
「何ですか?」
「今から言う人物の部屋から、ある物を持って来て欲しいんだ」
部長はその人物の名前と、部屋から持って来て欲しい物を口にした。
「なんで、そんな物を?」
「もしかしたら、それに犯行を裏付ける証拠が残っているかも知れないんだ」
「——ッ!本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「じゃあ、犯人は『あの人』なんですか?」
「私の考えが正しければね」
部長は僕に向かって、両手を合わせる。
「私では警戒される。あの人の部屋から『あれ』を持って来れるのは君だけだ。頼まれてくれるかい?」
事件解決のためならなんでもすると誓った。それくらいやる。
「分かりました。やります」
「ありがとう。頼んだよ」
白崎部長の部屋を出た僕は、その人物の部屋へと向かう。
ドアをノックすると「はい」という返事が聞こえた。
「雨音です。少し良いですか?」
静かにドアが開く。顔を出したその人に僕は言った。
「話があります。中に入っても大丈夫ですか?」
一時間後、僕は部長の所に戻って来た。
「ご苦労様。随分、時間が掛かったね」
「すみません、つい話し込んでしまって……」
「顔色も悪いようだけど、大丈夫かい?」
「大丈夫です。それよりも、これ……」
僕は『あの人』の部屋から持って来た物を部長に渡す。
「雨音君、よくやった!」
部長は『それ』を見ると、満足そうにニヤリと笑った。
「山本さん、伊達さん、そして飯田君。三人を殺した犯人は、やはりあの人だったよ」
「本当ですか⁉」
「ああ!」
白崎部長は力強い声で言った。
「雨音君、全員を呼んで来てくれ。皆の前で事件の真相を話す」
集められた四人の反応は様々だった。
「犯人が分かったというのは本当ですか?」
勝也さんは驚愕し、
「本当に犯人が居るんですか?」
田沼さんは困惑し、
「犯人は誰なんだ!」
春日さんは血走った目で叫び、
「……」
黒原さんは静かに微笑んでいた。
「はい、犯人は……」
白崎部長は役者のように大きく手を振る。
「私達、六人の中に居ます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます