飯田先輩の部屋をそのままに、皆はそれぞれ自分の部屋へと戻る。

「部長!」

 僕は白崎部長を呼び止めた。

「どうした?」

「飯田先輩は自殺なんてしてません」

 部長はじっと僕の目を見る。

「何故そう思うんだい?」

「それは……」

 一瞬、言うべきか迷った。これは飯田先輩だけの想いだ。飯田先輩だけの大切な気持ちだ。それを僕が勝手に部長へ伝えても良いのだろうか?そんな考えが頭によぎる。

 でも、僕は部長に伝えようと決めた。間違っているかもしれない。だけど、部長には知っていて欲しかった。飯田先輩の想いを。

「飯田先輩は、部長が好きだったんです」

「……」

「この島に来た最初の夜、飯田先輩は僕に教えてくれました。部長が好きだって。この島に居る間に部長へ告白するんだって言ってたんです。でも、飯田先輩はまだ部長に想いを伝えていませんでした。そんな先輩が自殺するはずがありません!」

「……そうか」

 白崎部長は静かに目を閉じる。

「……雨音君」

「はい」

 長い沈黙の後、白崎部長は口を開いた。

「私は飯田君に好かれる資格なんてないよ」

「えっ?」

「飯田君が自殺でなく殺されたのなら、十中八九、山本さんを殺した犯人と同一人物だろう。もしも、私がすぐに犯人を見付けていたら飯田君は殺されなかった」

「部長……」

「そもそも飯田君を一人にするべきじゃなかった。ずっと傍に居てあげればよかったんだ!そうすれば飯田君は……!」

 部長は両手で顔を覆う。冷静なように見えたけど、そうじゃなかった。部長は僕と同じくらい……いや、それ以上に傷付いていたんだ。

「必ず守ると言ったのに……絶対に守ると言ったのに……私は……私は……」

「部長のせいじゃありません!」

 僕は白崎部長の肩を掴み、叫ぶ。

「飯田先輩が殺されるなんて誰にも予想出来ませんでした。部長が気に病む必要は全くありません!」

「雨音君……」

「部長が悲しんでいると、天国で飯田先輩が安心して……安心して……」

 あれ?おかしいな。部長を励ましたいのに声が出ない。頬を何かが流れる。気付かない内に僕は泣いていたらしい。

「す、すみません」

 慌てて涙を拭っていると、今度は白崎部長が僕の肩に手を置いた。

「全く、駄目な部長だな私は。後輩に心配を掛けてしまうとは」

 堂々と、自信に満ちたいつもの白崎部長の顔がそこにあった。

「君の言う通りだよ。此処で私がへこたれていては天国の飯田君に心配を掛けてしまう。私が今やるべきは悲しむ事じゃない。事件の解決だ!」

「部長!」

「私は事件を解決し、飯田君を殺した犯人を必ず捕まえる。改めてお願いするよ雨音君、一緒に犯人を見付けよう!」

「……ッ!はい!」

 それから僕と部長は、すぐに調査を開始した。

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