第2話 異龍の少女
魔道国デモリアと魔海域を隔てた大国タイタニアに、あるスライムが降り立った。全てが巨大なこの国では、スライムは羽虫程度のデカしかなく、その警備網は易々と突破できた。
「ヤァこんにちわ。僕はスランプ。スライムなんだ。
今君が望んだこと、僕が叶えてあげられるよ。」
「おチビさん、何の用?」そのドラゴンは答えた。
「君のような四大ドラゴンのどれにも属さない新種は、この怪物王国で
は、生き残れないよ。例え、君が王族の血を引いていてもね。
黄龍、黒龍、青龍、赤龍のいずれでもない白龍の君は、やがて異物と
して抹殺されるよ。君は、四色貴族には災いの種だからね!」
少し、牙を剥き、
「嫌なこというわね、食べるわよ!」
「まぁ興奮しないでよ!単刀直入に提案するね。
僕と契約しないか?
もちろん、この世界で他のドラゴンの子供を孕むだけの
生き方もありだけど、違う生き方を異世界で探すのもアリ
だと思わない。」
違う生き方というワードに心が動いた。
「ネェ、スランプちゃん、
その世界でも私はホワイトドラゴンのままなの?」
「そもそもドラゴンはモンスターはおとぎ話の生き物だから、
君は違う姿に転生した方がいいと思うよ。
もちろん、その気になれば、その姿にはなれるけど。」
「そこにいる生き物は片っ端から食べちゃって構わない?」
「それも困るな?それにハンバーガーとか寿司とかピザとか、
美味しい食べ物はいくらでもあるし、それに自由があるよ!」
「自由って?」
「自分の意に沿わない生き方をしないで済む生き方さ!」
二日後、タイタニア国ドラゴン王族の血を引く白龍アイスバーンは、母親の
青龍から歴代最強ドラゴンの鱗から作られた絶対防御のシールドを渡された。防御を恥とするドラゴンが多いため、このシールドは、秘宝庫の奥でずっと眠ったままであったが、歴代のクィーンにより常に強化された最強の盾だった。
この秘宝が消えても、アイスバーンの姿が消えてもドラゴンパレスでは何も騒ぎが起きなかった。それだけ、このタイタニアは、最強のドラゴン族が統治する国
のため平和ボケしていた。
翌日、スランプにその巨大な身体を飲み込まれ、教わった転移魔法ミラージュの詠唱の後、目を覚ますと、アイスバーンは、銀色の髪をした、十五歳くらいの人間の女の子に姿を変えていた。
「アイスバーンさん、とりあえず目の毒ですから、
そこの服を着ていただけませんか。」
「私、衣を纏ったことないのだけどダメかしら!」
「お願いします、人間界では非常にマズイのです。」
「さて、今からどうするのかしら?」
「とりあえず、新しい居住地へ落ち着き下さい。
それから、この日本でアイスバーンは呼びにくいので、
今日からあなた様は、竜崎雪 リュウザキユキ とお名乗り下さい。」
それから竜崎は、202号室というプレートのついた、狭い入り口の
広大な広さの部屋に通された。
「この部屋大きいわね。」
「竜崎さんがドラゴンに変身して、暴れても大丈夫なくらい広い
ですから。好きな姿でお過ごしくださいね。
衣服はこれから増やしていきましょう。
「ところでスライムのスランプちゃん、
私たちを助けてくれた見返りは何なの?」
「さすが知恵がまわりますね。気がつきました?」
「だって、お隣さんの異様な雰囲気は、私とは違うけど、異様だし、
悪魔でしょ。何を企んでいるの?このちっぽけな国に破壊?」
「いえいえ竜崎さん、その逆です。
人間風にいえば、アルマゲドンの準備です。
人間は、魔力も妖力も霊力もありません。
古の錬金術や忍術は失われたままだし、道具に頼った
科学技術力はありますが、それもエネルギーがなければ
使えないものばかり。役には立ちません。」
「私、あまり人間のことは知らないけど、
もしかしたら、何かが来るのね?
そのために私たちの力がいるのね?」
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