第10話 ファントム事件簿⑨

今でも目に、耳に、脳裏に焼き付いている。

「ど、どうしてアタシなんかを」

「どうしてって、そんなの、私が……」

今にも消えそうな掠れたその声と、だんだんと冷たくなっていく、その両の手。

今思い出すだけでも心が締め付けられる。まるで半身を切り落とされるような痛みだ。

でも、待ってて。もうすぐだから。もうすぐ、あの男に報いを受けさせるから。

そう心に誓い、目の前にある花壇に向けて手を伸ばし、

「待ってて、春姉」

その手の先に、意識を集中させた時だった。

「園芸部員達が端正込めて育てているんだ。それ以上はいけないなぁ」

背後から投げ掛けられた、男の声。

けれど、驚きはしなかった。何となくこうなる気はしていたから。

だからこそ、振り返り一際朗らかな笑みを浮かべる。そう、あの人のような春の日の温かな笑みを。

「あら、こんばんは。こんな時間に学校に侵入していることが理事長に知られたら、今度こそ警察を呼ばれてしまいますよ?」

そう、目の前で不適な笑みを浮かべている笠原雅也に向けて。

















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