第8話 ファントム事件簿⑦
「いや~、これはまた立派な家だね」
放課後のゴールポスト焼失騒ぎから一時間後、荷物をまとめて立花高校を後にした雅也と理緒は、ある一軒の民家の前にいた。
道路と隔てるように立派な数寄屋造りの門がそびえ建ち、その横には石垣が長く続いている。また、門の隙間から見える限り、その奥に鎮座する和風民家も厳かな雰囲気を放っていた。そしてその門に設えられている表札には『久遠』の文字が。
さて、と一息おき雅也がインターフォンを押す。するとややあって、インターフォンからガチャリと受話器を取る音が流れ。
「はい、久遠です」
耳に届いたのは、落ち着きのある女性の声。
「どうも、笠原相談所所長の」
「笠原雅也さんですね。娘から伺っております。少々お待ちください」
娘、というのは春菜のことだろう。と言うことは、インターフォンの声の主は春菜の母親か。
雅也がそう状況を整理していると、ガラガラと玄関の戸を引く音が。そしてややあって、すぐに門が開き、髪をハーフアップにまとめた女性が姿を表した。が、年の頃は二十代後半、高く見積もっても三十代中頃だろうか。
「お待たせしてしまってすみません。春菜の母です」
「お母様でしたか。お若いからてっきりお姉さんがいらっしゃったのかと」
「お上手ね、こんな四十手前のおばさんに。さあ、どうぞ入って」
姉発言に気をよくしたのか、春菜母は雅也達のことを特に怪しむ様子もなく招き入れた。それに続き、雅也が門を潜ろうとしたところ。
「所長。意外と若いとは思ったけど姉とは1ミリは思っていなかったですよね?」
「ハッハッハ、女性には常にリスペクトのもつものさ」
笑い飛ばし、構わず久遠家の門を潜る雅也。そんな背を前に、理緒はどこかふて腐れたように、
「私には、ちっともお世辞言わないくせに」
誰にも気付かれることなく、一人唇を尖らせた。
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