第6話ファントム事件簿⑤
「やはり発火系統に属するエクステンダーはいないみたいですね」
私立立花高校で発生する連続ボヤ事件の調査開始から2日。調査の拠点に与えられた同校の資料室で机について資料に目を通していた理緒は、小さく息を吐き、目を閉じて天井を見上げた。
そんな時だ、ガチャリとドアが開いたのは。
「おやおや理緒くん。ずいぶんお疲れのようだね」
にこやかな笑みで姿を現した雅也。その姿を目にした理緒の表情は、それに反し一気に険しいものへ。
「理不尽な上司に書類調査を丸投げされましたので、疲れもします」
「ハッハッハ。ずいぶんとひどい上司がいたものだね」
嫌みに動じることなく朗らかな笑みで返すと、雅也は理緒の対面の椅子を引き、腰かけた。
「それで、結果はどうだった?」
「久遠さんに用意してもらった全校生徒ならびに教職員のデータを確認しましたが、エクステンダーは全部で4名。しかし、ボヤ騒ぎを起こせそうなエクステンド保有者はいませんでした。また、一年前にはさらに3名のエクステンダーがいましたが、2名は同時期に退学。さらにもう1名は」
そこまで口にし、沈痛な面持ちで眉を伏せる理緒。しかしややあって顔を上げると。
「先程の2名が退学する一月前、一般人相手に傷害事件を起こし、EPIの執行対象になっています」
「そうか。まぁ、どちらにせよ在学中じゃないなら犯行は難しいかな」
なにやら折りたたまれた紙を取り出し、雅也はそれを机の上に広げた。そこに記されていたのは、この校内の見取り図だ。
「ここと、ここ、後ここもだ」
そして、その見取り図に数ヵ所赤丸を書き加えた。
「いつからかは不明だけど、これだけの箇所に監視カメラが仕掛けられていた。まず部外者の侵入は考えられないだろうね」
「ですが、校内には該当するエクステンダーはいませんよ」
「うーん、そうなんだよねぇ」
座っている椅子をブラブラさせ、嘆息ぎみに呟く雅也。すると、ボソリと理緒が呟く。
「存在するはずの無いエクステンダー、ファントム……」
途端、雅也はピタリと動きを止めた。そして、理緒もまた無意識とはいえ自分が何を口にしたのか理解し、目を伏せ、申し訳なさそうに俯いた。
そんな部下の様子を前に、頬杖をつき、窓の外に広がる青空を眺めながら深々とため息をついた。
「そんな人間、この世に何人もいるわけないじゃないか」
そう口にし、どこか自虐めいた笑みを浮かべる雅也。その後、二人とも何となく気まずさを感じ室内に沈黙が流れた。
だからだろうか。部屋の外が徐々に騒がしくなってきたことに気づけたのは。
「妙に騒がしいね。放課後かな?」
「いえ、チャイムは鳴っていなかったのでまだ授業中かと」
「それじゃあ、一体何が」
事態を確認しようと、立ち上がりドアの前まで向かい、手を掛けようとした時だった。それよりも僅かに早くガラッと勢いよくドアが開き。
「大変です! 新しい火災が発生しました!」
血相を変えて入室した春菜により、そう告げられた。
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