第5話ファントム事件簿④
エクステンダーによる連続ボヤ騒ぎが起きている私立立花高校。その高校では、事件の調査を進めないように、教師達が理事長から圧力を受けている可能性がある。
春菜から語られた予想外のその現状に、雅也は唖然とした。
「理事長の圧力とは、またすごい話だね。どうしてそう思うんだい?」
「それは……」
春菜がそう話し始めたときだった。突然部屋の外、廊下から男性2人の怒声が聞こえてきたのだ。
思わず会話を止めて、顔を見合わす3人。そして互いに頷き、ドアを開けて廊下の様子を覗いた。
すると、
「何でだよおっさん! このまま野放しにすると被害が増えるばかりだって、何で分かんねぇんだよ」
「えぇい、黙れ。これ以上は貴様らEPIには頼らん。自力で解決する」
小太りで白髪混じりの初老の男性と、大学生ぐらいの青年が何やら言い争いをしていたのだ。
「とにかく、これ以上しつこいようなら正式に抗議させてもらう。分かったらとっとと出ていけ!」
ひときわ大きな怒声。青年が一瞬たじろぐと、初老の男はずんずんと体を揺らし、廊下の奥へと姿を消した。
呆然とうなだれる青年。その姿を前に、雅也は一度深々とため息をつき。
「やぁ、相変わらずの狂犬振りだね来栖くん」
ややあって、満面の笑みを浮かべ、その青年に声をかけながら廊下に出た。来栖と呼ばれたその青年は振り返り、雅也の姿を目にすると、先ほどまで以上に一気に表情に険が増す。
「テメェ、笠原! どうしてここに」
「どうしてって酷いなぁ。もちろん、仕事に決まってるじゃないか。それとも、仕事以外で僕がここにいたらダメなのかな?」
「所長。仕事以外で学校に侵入したら、それはただの不審者です。ということで、今から警察呼びますね」
「うん、理緒くんキミはどっちの味方かな?」
親しげに話す3人。その様子を目の前に、春菜も恐る恐るといった様子で廊下へ。
「あの、笠原さん。こちらの方とお知り合いなんですか?」
そうして、春菜は雅也と対している来栖と呼ばれた青年を見やる。
目付きの鋭い、まるで猛禽類を彷彿とさせる眼光。短く切り揃えられ、整髪剤で動きをつけられた頭髪。そして服の上からでも一目で分かる鍛えられた体躯。
まさに、雅也の対極に位置するかのような存在。
春菜の問いかけに、雅也はニヤリとまるで悪戯っ子のような無邪気な笑みを浮かべ。
「それでは紹介しましょう。彼こそが、EPI名古屋支部きっての狂犬、来栖健吾くんです」
「わーぱちぱちぱち」
雅也の紹介と共に表情を変えることなく喝采を送る理緒。
対して当の本人である青年、健吾は肩をわなわなと震わせ。
「誰が狂犬だ! 誰が!」
「え、じゃあ負け犬の方がよかった?」
「いいわけあるか! ちゃんと名前で呼べ、名前で!」
「顔を赤らめながら名前呼びをせがむなんて、まるで付き合いだしたカップルみたいじゃないか。健吾」
「普通に来栖さんって呼ぶ頭はないのか、このクソガキ――」
そこまで健吾が口に仕掛けたときだった。不意に、電話の着信音が廊下に鳴り響いたのは。
勢いを削がれた健吾は舌打ちをしつつ、ズボンのポケットから乱雑にスマホを取り出し、ディスプレイに表示されている相手の名前も確認せずに電話にでた。
「はい、もしも――」
しかし、健吾の言葉はそこで止まった。
いや、正確には電話相手に何やら弁明めいた言葉を並べているが、けれど、穴の空いた風船のように次第に威勢が削がれていき。
やがて……。
「了解しました。急ぎ帰投します」
力なく発し、通話を終えた。
その様子を前に大体の状況を察した雅也は、深々とため息をつき。
「鬼さんからかな? その様子じゃ、どうやら無許可で出張ってきてたみたいだね」
「だったら、何だってんだ」
「そんなだから、狂犬だっていうんだよ」
ボソッと呟いた言葉。しかし、それが耳に届かなかったのか、健吾は何ら反応することはなく無言で踵を返しその場を後にする。
けれど、数歩進んだところでピタリと足を止めた。
「いいか笠原。犯人は必ず俺が潰す。だから余計な真似するんじゃねぇぞ」
それだけ吐き捨て、健吾はその場を後にしたのだった。
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