第4話 ファントム事件簿③

太陽もすっかり上りきった平日午後。

久遠春菜から連続ボヤ騒動の事件解決を依頼された翌日、雅也と理緒は私立立花高校の校門前にいた。

「それにしても所長。依頼翌日にすぐ動くなんて今回は張り切ってますね」

「そりゃね。EPIも既に動いてるなら出遅れちゃ不味いでしょ」

「そうでしたか。今回の依頼主が所長好みの、大人しめな清楚系美少女だからやる気になっているとばかり。認識を改めます、ロリコン野郎」

「うん、明らかに何も改まっていないね。しかもあの子同い年みたいだから、ロリコンはないんじゃないかな?」

「そんなことまで調査済みでしたか。確かにロリコンではありませんね。このストーカー」

「うん、どうやらうちの助手は依頼申込書の欄にどんな項目があるのか知らないみたいだ」

二人してそうやいのやいの言い合っているときだった。

「君たち、こんなところで何をしているんだ!」

耳に届いた突然の怒号。声のした方へ顔を向けると、年若い男性教師らしき人物が二人、雅也たちのいる校門前へ駆けてきていた。

「これはこれは先生方。私、こういう者でございます」

教師陣が雅也たちの前に来たタイミングで、名刺を差し出す。それを受け取った2人は紙面に視線を落とし。

「笠原、相談所?」

「はい。昨日連続ボヤ騒ぎ解決の御依頼を頂けたので、早速調査にと」

「調査依頼? そんなのだした覚えは」

これでもかと言うぐらい不信感を隠しもしない教師2人。すると、そんな時だった。

「すみません、勝手ながら生徒会の方から依頼させて頂きました」

騒ぎを聞き付けたのか、春菜が小走りでやって来たのだ。

「久遠。お前はまたそんな勝手な。理事長からも通達があっただろ、幸い被害もいたずら程度ですんでいるし、今回の件は大事にするなと」

「ですが、今後大きな被害が出ないとも言いきれないではないですか」

予期していなかったのか、春菜の反論にたじろぐ教師陣。その様を確認し、春菜はくるりと雅也たちに向き直り。

「お待たせしました、笠原さん。それでは行きましょうか」



結局、教師陣の反対を押しきり校内へ移動した雅也たち一行。そのまま春菜が先導するかたちで、3人は第2資料室と書かれたプレートの刺された1室へとたどり着いた。

ドアを開けると、部屋の中央には長テーブルが1つ、そして両サイドの壁際には資料棚が置かれていた。

「すみません。このような部屋しかご用意できなくて」

「いやいや、問題ないよ。それに、こっちこそゴメンね、急に押しかけて。」

中央テーブルの椅子に腰掛けながら、言葉を交わす2人。

そうフォローした雅也の脳内に思い返されるのは、先ほどの教師2人の態度。

確かに、いち生徒が教師になんの相談や報告もなく外部組織に依頼するのはよろしくないだろう。けれど、あの様子はただ報連相を怠った生徒を諌めているわけではなく、もっと何か別のことに怯えているような。

すると、そんな上司の疑問を知ってか知らずか。

「しかし、よろしいのですか? 先生方からは明らかに歓迎されていないようですが」

理緒のその問いかけに、春菜は目を伏せ。

「構いません。先生方も内心では理解されているはずですから。このまま手をこまねいていては、いずれ取り返しのつかないことになると」

「ではなぜ、ああも反対するんだい?」

雅也の指摘に、春菜はビクッと肩を震わせた。しかし雅也は構わず続ける。

「なるほど、確かに今後もボヤで済むかもしれない。けどそれだって、続けば修繕費でかなりの額だ。それにボヤ騒ぎの続いている学校と世に知られたら、来年以降の入学希望者数に必ず影響が出るよね」

つまり、仮に学校側が生徒の安全を度外視していても、現状維持はあり得ないのだ。

雅也が言外に問いたかった事を、春菜も理解したのだろう。一度目を閉じ、やがて言葉を選ぶように口を開いた。

「理事長に、圧力をかけられているんだと思います」






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