第3話 ファントム事件簿②
「それじゃあ、まずは自己紹介お願いできるかな?」
玄関に面している事務所の隣室、笠原雅也は室内中央のソファーに腰を下ろして来訪者に促した。
すると、テーブルを挟んだ対面のソファーに着いている来訪者の少女は、どこか緊張した様子で。
「は、はい! 私立立花高校生徒会長の久遠春菜です」
「久遠さんだね、よろしく。僕はこの笠原相談所の所長、笠原雅也。で、こっちが助手の切山理緒」
ちょうどお盆に湯呑みを2つのせて持ってきた理緒を指し、紹介する。すると理緒はテーブルに湯呑みを配膳し、頭を下げた。
「切山です。よろしくお願いします」
「は、はぁ……え?」
二人の挨拶に頷きかけ、少女ーー春菜は目を丸くし、二人を交互に見やった。
そして、雅也達にもまたその視線がなにを意味するものかは容易に想像つくもので。
「切山さん。残念ながら、ここの所長はこの人で間違いありません」
「そうそうーーって、残念ながらってひどい言いぐさだね、理緒くん」
「失礼しました。では、遺憾ながら」
「うん、全く変わってないね」
やいのやいのと言い争う二人。そんな様子を前に、春菜は驚きを隠せなかった。
所長と名乗った目の前の少年はどう見ても自分と、クラスメートの男子学生達と同い年ぐらいにしか見えないからだ。それならば、やや年上に見える理緒がここの代表だと思うことは自然なこと。
そんなことを考えていると、雅也が咳払いをし。
「話が脱線したね。それで、久遠さん。依頼内容は?」
雅也の問いかけに、春菜はどこか答えにくそうに。
「実は、私の通っている学校で夜間にボヤ騒ぎが多発しているんです。その調査を」
「あー、ちょっと待った待った。えっとここがどこだか分かっているのかな?」
「もちろんです。エクステンダーに関する困り事を調査してくれる事務所、ですよね」
「なるほど。じゃあ、そのボヤ騒ぎにエクステンダーが関わっていると?」
その問いかけに春菜は頷き。
「最初はただゴミ箱が焦げたり、校庭にある木が燃えたりするだけで放火のいたずらだと思い、警察に通報しました。けど、現場検証に来た警察の人がエクステンド、能力が使用された痕跡があると」
「なるほど。けど不思議だね。警察がエクステンダーによる事件と判断したら、自然と彼らに連絡がいくと思うんだけど。EPIに」
Extender punishment institution通称EPI。
元は民間企業として設立された、対エクステンダーの取り締まり組織。古くからエクステンダーによる事件を解決し、その功績から、今ではエクステンダー絡みの事件に対する警察の外部委託組織になっている。
しかし、にしては妙だ。
彼らが先に動いているなら、既に解決されていてもおかしくないはずなんだが。
そんな雅也の疑問に答えるように春菜は頷き。
「EPIが調査開始してから2週間が経ちますが、犯人は未だ捕まらず、事件が起き続けているんです」
その現状を耳にし、雅也は静かに目を閉じた。
エクステンダーが関わっているのは確定し、EPIはまだ手をこまねいていて、出し抜くチャンスは十分にある。
なら、とるべき行動は一つだけだ。
「その事件、この笠原相談所が責任をもって引き受けよう」
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