第13話 信じ合える二人(2)

 週が明けても、ブルーはブラックと最小限の会話しかしていない。



 月曜日。今日も最小限の会話しかしていない。凄く寂しい。前のように、若葉から、からかわれてみたい。そう言えば、軽口言う時の若葉はいつも笑顔だったな……。



 深夜にそんなことを日記に書いていて、ブルーはふとあることに気付いた。これを明日ブラックに伝えようと考えていた時に、まさかの緊急出撃命令が下る。ワルダ―が集団で暴走行為をしているらしい。それは警察で対応するべきじゃないかと思ったが、出撃命令には逆らえなかった。


 男性メンバーはそれぞれ車を所有しているので、残り二人を近い人が拾っていくことになった。


 ブルーは今、ブラックのアパートに向かっている。ブルーが一番近かったのだ。


 到着すると、すでにブラックは道に出て待っていた。これから出撃だと言うのに、ブラックの姿を見ると、ブルーの気持ちは高鳴った。


「全く何なの? 海水浴場の時もそうだけど、ブラック企業の汚名を着せられても人に迷惑を掛けようなんて」


 ブラックはブルーの車に乗り込むと、不機嫌そうに文句を言った。ブルーはどう返事をして良いか分からず「ああ、そうだな」と一言だけ返した。


 ブラックが持って来たバッグからCDケースを取り出し、デッキに入っていたCDと入れ替えて再生ボタンを押す。


「あっ……」

「何よ、どうせサイモンアンドガーファンクルなんでしょ。今回は私の好きなの聴かせてよ」


 スピーカーからは今人気のJポップアーティストの曲が流れる。ブルーは文句を言わずに、そのままにして車を発進させた。


「ねえ、私達が行って何をすれば良いの?」

「いや……知らない」


 ブラックはとげとげしい口調でブルーに訊ねる。


「ワルダ―の車の台数も多いみたいじゃない。自家用車が三台だけ行っても仕方ないんじゃないの?」

「警察も出てくれるみたいだよ。役に立つのか分からんが、相手がワルダ―だから俺達が出ないのはマズいんじゃないの。知らんけど」

「何よ、その他人事みたいな言い方! こんな時間に出撃命令されて、大地は怒ってないの?」


 無難な返事を続けるブルーに、とうとうブラックはキレてしまった。


「でも……俺はまた若葉と一緒に車に乗れてラッキーだと思ったよ」

「なっ……」


 ブラックは言葉を失って、窓の外に視線を移す。車の中は今流行りのJポップの曲だけが流れている。


「じゃあどうして、あの後連絡してくれなかったの?」


 ブラックが窓の外を見ながら、ぼそりと呟く。


「あの後って……」

「ドライブした後よ。土曜も日曜もあったでしょ。大地から連絡があるかと思って、ずっと待ってたのに……」


(ああそうか! 確かにあの後二日間は休みだったけど、連絡して良いのか分からなかったから、勇気が出なかったんだ。

 若葉はあのキスをただのお礼程度に考えているのに、彼氏ヅラして連絡してもウザがられるんじゃないかと考えてしまったんだ……)


「あ、あの時は……」

「良いのよ、どうせゲームしてたんでしょ。そっちの方が楽しいもんね」


 ブルーの耳に、ブラックの声が悲しそうに聞こえた。


「俺、あの時以来ゲームはしてない。ずっと若葉のことを考えてたんだ」


 ブラックは何も言わずに聞いている。


「さっき日記を書いていて気付いたんだ。俺の日記は若葉のことばかり書いているって。俺、お前のこと……」

「サイコチェンジ!」


 ブラックはブルーの話を遮るように、リングのボタンを押して変身する。


「もうすぐ、敵の車が見えて来るよ。大地も変身して奴等に備えて」

「あ、ああ……分かった」


 いきなりの展開で付いて行けないが、ブルーも変身した。確かにスーツを着ている方が運転の反応も良くなるし、万が一事故っても怪我する確率は低くなる。


「私がナビするから、大地はその通りに運転して。先頭の車の前に出て、強引にでもワルダ―の暴走を止めよう」

「了解!」


 暴走車集団の最後尾とそれを追い駆けるパトカーが見えてきた。道路は片側三車線。車は大きな排気音や、けたたましいクラクションを鳴らして、三車線に広がって走っている。


「左前に車線変更して前のパトカーを抜いて」


 ブラックは身を乗り出すようにして、道路全体を眺めている。彼女のスキャンアイには空いているスペースが手に取るように分かるのだろう。

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