第13話 信じ合える二人(1)

「今日の午前中は出撃もなく、平和で……」

「ぶつぶつ言いながら何を書いてんだ?」

「うわっ、人が日記書いてるのに覗くなよ!」

「ええっ! 大地って、日記を書いてるのか?」


 ブルーが作戦室のテーブルで日記を書いていると、イエローが後ろから覗き込んで来た。


「第六感で閃いたから、今日から始めたんだ。邪魔しないでくれよ」


 ブルーは中身を見られないように、ノートを手で隠した。イエローの後ろにブラックが居たが、二人には興味が無さそうにタブレットを観ている。


「いや、ツッコミどころ多過ぎて、放っとけないよ」

「何だよ、ツッコミどころって?」

「まず、日記って、寝る前にその日の出来事を書く物だろ。どうして昼ご飯終わった直後に書いてんだ」

「だって、寝る前じゃ忘れることもあるだろ」

「ええっ……マジかよ。その日の出来事ぐらい覚えておけよ。それに、こんな人のいる場所で、しかも声に出しながら書いてたら、覗かなくてもみんなに内容バレるぞ」

「えっ? 俺、声に出してた?」


 全く自覚が無かったブルーは驚いた。


「ホント面白い奴だな。そんなお前が大好きだけど、大地に日記なんて続かないんじゃないか」

「失礼だな、放っといてくれよ!」


 ブルーはノートを手で隠しながら、また書き出した。


「金曜の夜はあんなに可愛かったのに、休み明けの今日会った若葉は……」

「えっ? 金曜の夜に何が可愛かったんだ?」


 話し終わってトレーニングに向かおうと歩き出したイエローが、ブルーの呟きを聞き、ブラックの後ろ辺りで振り返る。と同時にブラックが勢いよく立ち上がった。


「ちょっとこっちに来い!」


 ブラックは血相を変えてブルーの腕を掴むと、作戦室を出て屋上まで引っ張って行く。出撃の予定も無いので、屋上のヘリポートは誰も居ない。


「金曜のことをしゃべったら殺す」

「わ、分かりました……絶対に言いません……」


 出入口のドアを閉めた途端、ブラックはブルーを壁際に追い詰め、殺気立った目で脅してくる。ブルーはシャレにならんくらい怖いと感じた。


「あれはホンット、単なる気まぐれだから! 変に勘違いしないでよね」


 ブラックが釘を刺すように言ってくる。


(あれとはキスのことか? やっぱり気まぐれだったのか……)


 ブルーは泣きそうな気持ちになった。


 今日月曜日は、ドライブデート後の最初の出勤日。ブルーは緊張しながら作戦室に入った。だが、ブラックは素っ気ない態度で、デートが夢だったのかと思うぐらいだった。今の態度を見ると、デートのことを後悔していたのだろう。ブルーは甘い展開を期待していただけにガッカリした。



 月曜日。あの後も若葉は朝と変わらない様子で、話し掛けても無愛想な返事しかしてくれない。まだいつものように、意地悪なことを言ってくる方が若葉らしいのに。


 火曜日。若葉は怒っているんだろうか? 昨日より感じが悪くなった気がする。仲直りしたくて、いろいろ話し掛けても適当な返事しか返って来ないし、ジュースまで買って来たのにいらないと言われる。悲しいです。


 水曜日。今日は久しぶりに出撃があった。行きのヘリの中で、俺の第六感を聞いてくるのは若葉の役目なのに、今日は聞いてくれなかった。仕方なく自分で発表したら、ハヤテ達は参考になると褒めてくれたのに、若葉だけは何も言わない。悲しい。



 ブルーはマメに毎日日記を書き綴った。



 木曜日になった。相変わらずブラックはブルーに対して塩対応だ。


 なんとかしたくて、ブルーはピンクに助けを求めることにした。ピンクが作戦室を出たのを見計らってブルーも出て行き、用事を済ませたピンクを屋上に誘って頼んでみた。


「ええっ、私に若葉ちゃんが何を考えているか調べて欲しいって? それは駄目よ。私の信用問題に関わるわ」

「それは重々承知してるけど、そこをなんとか」


 ブルーは拝みながら頭を下げて頼む。


「うーん、あなた達二人共心の中を読みに行かなくても、私からすれば大声で叫んでいるのと同じぐらい、気持ちが見え見えなのよ。そりゃあ私が間に入れば話が早いかも知れないけど、必ずしもそうする必要は無いと思うわ。だって、二人が素直になれば良いだけなんだから」


 ピンクは簡単なことのように言うが、ブルーにそれが出来れば苦労はしない。


「でも、若葉があんなに冷たい態度じゃ……」

「うーん、そうよね……分かったわよ。協力してあげる。でも、その代わり最初に聞くけど、大地君は若葉ちゃんのことを好きなのよね?」

「えっ?」


 急にそう聞かれてブルーは驚いた。確かにブラックを可愛いと思っているし、キスされて嬉しかった。だけど、これが好きってことなのかブルーにはよく分からなかった。


「もう、本当にそういうとこよね。若葉ちゃんが怒るのも良く分かるわ」

「ごめんなさい」


(女同士、真心さんには若葉の気持ちがよく分かるのだろう。自覚は無いけど、俺が怒らせるようなことをしているんだろうな……)


「大地君は今、日記を書いているのよね。それで自分の気持ちを見つめ直すこと。あと、若葉ちゃんに対して、余計なお節介を焼かないこと」

「余計なお節介って……」


(俺が一生懸命話し掛けたり、ジュースを買ってきたりするのは余計なお節介なんだろうか?)


 ブルーは途端に不安になる。


「仲良くなりたくてしているんだろうけど、小学生の男の子が好きな子に意地悪するのと同じことなのよ。とりあえず今は、挨拶と必要な会話だけで良いわ。無理に冷たくする必要は無いけど、今みたいにしつこく絡んで行かないこと。分かった?」

「はい、分かりました。ありがとう。真心さんの言う通りにするよ」

「そう、素直なのが大地君の良いところよね。それでしばらく様子を見ることね」


 自分には女心が分かって無いと自覚しているブルーは、ピンクに相談に乗って貰えて嬉しかった。


 ピンクにアドバイスしてもらった後は、ブルーは自分からブラックに話し掛けないようにしていた。無視しているようで落ち着かないが、我慢するしかなかった。


 週末になった。先週のような第六感の閃きが無く、ブルーはそわそわして落ち着かない。もう一度車で機構の雑居ビルの近くに来てみたが、当然ブラックは現れなかった。

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