第12話 真夜中のドライブデート(2)
「結構運転上手いじゃない」
「えっ、そう? そんなの言われたの初めてだよ」
「うん、無茶なスピード出したりしなくて、乗ってて安心出来るよ。言われたこと無い?」
「ああ、そう言えば助手席に女の子を乗せて走るの初めてだったよ」
「ええっ?!」
ブルーの言葉に、ブラックは思いの外驚いた。
「そんなに驚くことか?」
「あっ、いや、重いと言うか、特別過ぎるって言うか……」
「考えすぎだよ」
「そ、そうよね……でも……」
ブラックはためらうように言葉を繋いだ。
「でも?」
「ちょとだけ嬉しい」
「ええっ?」
ブラックの意外な言葉にブルーは驚く。
「あっ、ちょっとだけよ。変な風に取らないでよね」
その後も、ブラックは何かと話し続けた。オフの過ごし方や趣味の話まで。いつも隣同士で座っていたのに、初めて聞く話も多かった。
なぜかブルーの頭に、小さな子供が一生懸命お母さんに話し掛けているイメージが浮かんできた。
一時間ほど走って、ドライブウェイの中腹にある小さな展望台の駐車場に着いた。平日の真夜中の駐車場には一台も車が停まっていない。僅かな外灯の灯に照らされた駐車場は、どこか別世界のように寂しく見えた。
ブルーは展望台に一番近い場所に停めて、車を降りた。
「寒っ……」
車を降りた途端にブラックは身を縮こませる。
「そんな薄着じゃ当たり前だろ。夜の山は冷え込むからな。ほらっ」
ブルーは自分のシャツを脱いで、ブラックの肩に掛ける。
「えっ? 悪いよ。大地も寒いでしょ」
「俺は男だから良いの。遠慮せずに着とけよ」
「ありがとう」
もう少し反抗するかと思ったら、案外素直にブラックは従った。ブルーはTシャツ一枚になり、かなり寒い。
二人は並んで展望台の柵に寄り掛かって、眩く光る夜景を眺めた。辺りは静かで、世界に二人だけしか居ないような気分になった。
車の中ではあれほど饒舌だったのに、ブラックは黙って綺麗な夜景を眺め続けている。
寂しい思いを抱えて泣いている人は、ブラックで間違いは無いだろう。でも表面上はそう見えない。いつもよりテンションが上がったり下がったりしているが、泣いていると言う程では無かった。
ブラックの様子が変わったのは、海水浴場の事件があってからだ。やはり姉であるホワイト将軍のことで悩んでいるのかとブルーは考えた。
「何か、悩みでもあるのか?」
ブルーはブラックの横顔に聞いてみた。
「それは第六感で閃いたの? 今日、あの道路で待ってたのも私が来るって分かってたからなの?」
ブラックは夜景を観続けながら、ブルーに問い掛けた。
「来るのが若葉とまでは分からなかったよ。ただ、寂しくて泣いている人が居るって閃いただけなんだ」
「そっか……私だから待っててくれたんじゃないんだね……」
変わらず夜景に目を向けたまま、ブラックは寂しそうに呟いた。
「あっ、いや、あれから若葉ずっと元気がなかっただろ。だから、若葉が現れた時に元気付けるチャンスだって思ったよ。それに俺だけじゃない、ハヤテや真心さんや剛士だって、若葉のこと心配してたんだ」
「もう、そこは俺だけが君の味方だよってところでしょ。どうして、自分だけをアピールしないのよ」
ブラックはブルーを見て、軽く怒って見せた。
「あっ、そうか……」
ブラックはブルーのとぼけた返事を聞いて吹き出す。
「そうやって、口説こうとしないところが大地らしいね。何だか元気が出た。ありがとう」
そう言って笑うブラックは、普段の小悪魔的な可愛さではなく、まさに天使のように見えた。
本当は悩みが解決した訳じゃないのかも知れない。でも、ブラックの表情を見て、今は大丈夫だとブルーは思った。
「家に一人で居たらね、急に誰か知ってる人に会いたくなったの。わざわざ電車に乗って機構のビルの近くまで来て、歩きながらスキャンアイで探してね。こんな夜中なのに馬鹿みたいでしょ」
「そんな時は連絡してくれよ。俺が嫌だったら、ハヤテや……あっ、いや俺に連絡してくれれば、絶対に会いに行くから」
慌てて言い直したブルーを見て、ブラックはまた吹き出した。
「もう……もう少しカッコ良く決めてよ」
ブラックは笑い過ぎて出て来た涙を拭う。
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