第12話 真夜中のドライブデート(1)
ワルダ―の海水浴場襲撃事件が起きてから、約三週間が経過した。その後は一度もワルダ―は出現していない。幹部であるパープル将軍が捕まった影響が出ているとの分析もあるが、真相は判明していなかった。
九月に入った週末の金曜日。サイコレンジャーのメンバーは平和を満喫し、作戦室でボードゲームを楽しんでいた。
「いやー、平和って良いものだね。このままワルダ―が出現しなければ楽で良いよな」
イエローが呑気に呟く。
「ハイ、ゴールっと。今回は俺がトップだな」
ブルーが嬉しそうに呟く。
「私、トレーニングルームで走って来る」
ゲームが終わり、また次の暇つぶしをしようとしていたメンバー達を残して、ブラックは一人でトレーニングルームに向かった。
「若葉君、海の事件以来元気が無いな」
レッドが心配そうにブラックが出て行った扉に向かって呟いた。ブルーとイエローもそれに頷き、みんなの視線はピンクに集まる。
「えっ? 私? 知らないわよ。私も心配だけど、若葉ちゃんから何も聞いて無いもの」
ピンクも困惑したように答えた。
みんなの心配も知らず、ブラックはトレーニングルームのランニングマシンで、雑念を振り払うかのように黙々と走り続けていた。
その日の深夜。ブルーは自宅でゲームをしていたが、集中できなくてコントローラーを投げ出した。
ブルーは親元を離れ、アパートで独り暮らし。サイコレンジャーの仕事はきっちり定時で終わるので、夜はだいたい家でゲームをして過ごしている。だが今日はプレイしていても楽しく感じられず、集中できないでいた。
理由は分かっていた。第六感がうずきだしているのだ。
どこかで寂しい思いを抱えて泣いている人が居る。その人を助けに行けと第六感はブルーに訴えていた。
「ちっ、仕方ねえな」
ブルーは第六感の教えには従うことにしている。今まで何度も第六感に助けられてきたからだ。レッドが落ち込んで悩んでいた時も、第六感が病院から抜け出した彼の居場所を教えてくれたのだった。
ブルーはTシャツの上にシャツを羽織ってアパートを出た。近くの駐車場に停めているマイカーに乗り込み、第六感が閃く方向に走らせる。
車は製造から二十年近く経っている国産の中古車だ。ブルーは別にドライブが好きな訳じゃない。こうやって第六感が閃いた時の為に購入したのだ。
車は対特殊組織防衛機構の雑居ビルがある都市部に向かって走っている。毎日通い慣れたビルの近くで閃きは止まった。ブルーは路肩に車を停め、助けを求めている人が現れるのを待った。
(何歳ぐらいの人だろう? 男か? 女か?)
ブルーにもそこまでの詳細は分からない。ただ、絶対に現れるので、なんとかして助けるだけだ。何をどう助けるのかさえ、今は分かっていないのだが。
車を停めてから十分経過した時、きょろきょろ周りを見ながら、歩道をこっちの方向に歩いて来る女が現れた。女はブルーに気付くと、周りを見るのを止めて、真っ直ぐ車に向かって歩いて来る。女は黒いロングTにデニムパンツを穿いている。肩までぐらいの長さの髪で、顔は暗くてよく見えない。
「若葉……」
女が三メートルくらいに近付くと顔が分かった。女はブラックだった。
「あんたストーカーなの? どうしてここに居るのよ!」
助手席側からブラックが怒鳴る。
「偶然だな若葉。お前こそ今時分どうしてここに居るんだ?」
ブルーは助手席の窓を開け、そう話し掛けた。
「暇だから散歩してただけよ。大地こそどうしてここに居るのよ?」
「俺も暇だからドライブしてて、今は少し休憩してただけだよ」
ブルーがそう言うと、ブラックは助手席のドアを開け、乗り込んで来た。
「じゃあ、特別にドライブに付き合ってあげるわ」
「ホントか、それは嬉しいな。じゃあ、どこに行きたい?」
ブルーは天邪鬼なブラックを刺激しないように、素直に従った。救うべき相手はブラックだと確信したからだ。
「夜景が観たい。人があまり居ない場所で」
「夜景? しかも人が居ない場所で?」
「良いじゃない、今は人が多いところに居るのが嫌なの。良い場所知らない?」
「うーん、了解。思い当たる場所が一つだけあるから、そこに連れてくよ」
ブルーは一度だけ一人で行ったことのある山に向かって、車を走らせた。
「意外ね。大地、車を持ってたんだ」
「まあ、車ぐらいは持ってるさ。ドライブに行ったりするからな」
「へー、一緒にドライブに行ってくれるような人が居るんだ」
「ドライブは一人でも出来るんだよ」
「まあ、大地はそうよね」
ブラックはそう言って笑った。
「ねえ、何か音楽は無いの?」
「うん? デッキにCDが入ってるよ」
「ああ、これね」
ブラックがカーオーディオの再生ボタンを押し、CDの曲が流れる。
「あっ、これもしかして……」
「サイモンアンドガーファンクルだよ」
「やっぱり……」
ブラックはガッカリした表情を浮かべる。
「若葉は普段何を聴くんだよ」
「私はJポップオンリーね。まあ、メジャーなアーティストばかりだけど。でも、今日はこれで我慢してあげるわ」
「それはありがとうございます」
ブルーはブラックの言葉に少しホッとした。最近は鳴りを潜めていたブラックの軽口が聞けたから。
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