第11話 ブラック&ホワイト(3)

 ブルー達二人が戻ると、すでに他のメンバーも異変を察知してサイコレンジャーに変身していた。


「イエロー、紗耶香さんはどこに?」


 ブルーは紗耶香の姿が見えないことに気付く。


「あっ、ブルー、紗耶香さんはもう車に避難して貰ったよ」


 イエローがブルーとブラックが戻って来たことに気付いてそう答えた。


 笑顔に満ちていた海水浴場は、突然現れたワルダ―達の暴挙でパニック状態になっている。


「ブルー先輩! こっちを手伝って貰えませんか!」


 少し離れたところで市民の避難誘導しているグリーンが叫ぶ。


「分かった、今行くよ!」


 ワルダ―の戦闘員と一般市民が入り乱れ、サイコレンジャー達は戦うことが出来ない。サイコリボルバーも使えないのだ。とりあえず市民の避難誘導を優先し、それを邪魔する戦闘員を排除していた。


「若葉君、この場を仕切っているワルダ―のリーダーがどこに居るか分かるか?」


 レッドが戻って来たブラックに聞く。


「調べてみる」


 ブラックはスキャンアイを使い浜辺を捜索し始めた。


(凄い、ワルダ―一味は戦闘員だけでなく、怪人も何人か出てきてるわ。かなり大掛かりな作戦みたい。

 あっ、あれはパープル将軍! その前にお姉ちゃんが……)


 ブラックは三階建ての土産物屋の屋上に、パープル将軍とホワイト将軍が対峙しているのを発見した。


「あの土産物屋の屋上にパープル将軍とホワイト将軍が居るわ」

「幹部の二人が? 共同作戦なのかな」

「分からない。でも何か言い争っているみたい」

「みんな! このまま一般市民の避難誘導を続けてくれないか。私は将軍たちのところに行ってくる」


 レッドがメンバー達に指示する。


「俺も一緒に行こうか?」

「いや、剛士もここに居てくれ。市民の安全が第一だ。私も無理はしない。危なくなったら逃げるから」

「ここは任せてくれよ。パープル将軍には借りがあるんだろ。ちゃんと返して来いよ!」


 避難誘導に加わったブルーがレッドに声を掛ける。


「ありがとう。行って来る!」


 レッドはブルーの言葉に感謝して、超絶スピードで土産物屋に向かった。



 レッドが土産物屋に向かう少し前。パープル将軍の姿を見つけたホワイト将軍と死神は、土産物屋の屋上に続く外付けのらせん階段の下で、赤鬼執事に行く手を塞がれていた。


「ホワイト将軍、パープル将軍のところには行かせませんぞ。大人しくここで我らの活躍を見物していてください」


 赤鬼はホワイト達を通す気は無いようだ。


「私は行くと決めたら誰にも邪魔させない」

「なら力づくでもここに居て貰います」


 赤鬼がそう言った瞬間、死神が庇うようにホワイト将軍の前に立つ。


「ここは任せたよ」


 ホワイト将軍の言葉を聞き、死神はスッと跪く。ホワイト将軍は死神の肩を足がかりにして、らせん階段の外枠に飛びついた。次の瞬間にはボルダリング選手のように、スルスルと外枠を伝って登って行く。


「お前の相手は私だ」


 死神はホワイト将軍を追わせないように、赤鬼の道を塞ぐ。赤鬼も無理に追い駆けようとはせず、死神と対峙する。


「今回は油断せんぞ」


 赤鬼の手に、柄の長い斧が出現する。


「頼もしいお言葉ですね」


 ニヤリと笑う死神の手にも日本刀が現れた。



 屋上では、パープル将軍が砂浜を見つめながら、何やら呟いている。離れた場所と意思の疎通が出来る怪人を通して、遠隔で戦闘員に指示を飛ばしているのだ。


「休日だと言うのに精が出るねえ、パープル」


 ホワイト将軍がパープル将軍の背中に話し掛ける。


「ようやく来てくれたね、ホワイト」

「何?!」


 パープル将軍は笑顔で振り返る。


「偶然、お前達とサイコレンジャーがこの海水浴場に来ているとの情報を手に入れてね。やつらの所為にして、お前を始末する良いチャンスだと思ったのよ。

 下で死神を足止めしてお前だけ上に上がるように仕向けたのさ。赤鬼は良い仕事したようだね」

「ふーん、タイマンなら私を倒せるって言うんだ」

「当然。同じ将軍でも、お前と私とでは格が違うわ」


 両者とも口元に余裕の笑みを浮かべる。


「『見えない女王の鎖(チェーンオブクイーン)』」


 パープルは両手の平を前に突き出し、ホワイトの動きを封じる。だが、ホワイトの口元の笑みは消えていない。


「やせ我慢が上手だね」

「超能力なんて力が同等かそれ以下の者にしか通じないものよ。お前の能力で私を縛れると思うなんて笑わせるわ。ほ……ら……ね……」

「いや、それ十分に効いてるから! 強がってるだけだから! どこが『ほら』なのよ!」


 ホワイトが両手を上に上げようとするが、じわじわとしか動かない。パープルは両手を前に出したまま突っ込む。


「う……る…さい……な」


 ホワイトの右手に短剣が現れる。彼女は笑顔を浮かべて、腕を振るわせながらその短剣を持ち上げようとする。


「分かったわ。その短剣を自分の喉に突き立ててあげる」


 二人とも表情が険しくなり、短剣の動きを巡って攻防する。


「二人ともそこまでだ!」

「レッド!」


 いきなり屋上に出現したレッドに驚くパープル。レッドはサイコリボルバーをパープルに向けている。


「一旦休戦だ。お前との決着は、レッドを倒してからだ!」

「ご都合主義ね。まあ良い、レッドを倒せるなら、やって見せな」


 ホワイトと話が付いたパープルがもう一度目を向けた時には、レッドの姿は消えていた。


「同じ手は食わないさ」


 背中に衝撃が走り、パープルは前のめりに倒れた。


「威力は調整した。数日間は動けないだろうが、我慢するんだな」


 レッドがパープルを見下ろしながらそう言った瞬間、彼女は仰向けになり、両手を前に突き出す。


「『見えない女王の鎖(チェーンオブクイーン)』」

「うっ……まさか、あれを喰らって動けるのか……」

「馬鹿だね。お前達と同じで、この戦闘スーツも強化されているんだよ」


 パープルは両手を前に出したままで立ち上がる。


「ここが意地の見せ所だよ、レッド。前回と同じように負ける気?」


 ホワイトがからかうように、レッドに声を掛ける。


「私は……もう負けない……」


 レッドは渾身の力を振り絞って、腕を持ち上げ、サイコリボルバーをパープルに向ける。


「まさか……動けるのか……」


 パープルは驚き、さらに、両手の平に意識を込めて力を強める。


「マックスショットーッ!」


 レッドの叫びと共に、サイコリボルバーから精神能力弾が打ち出される。


「ギヤア!」


 パープルは精神能力弾を受けて、悲鳴を上げながらその場に倒れ込む。


 レッドは力を使い果たし、その場で四つん這いになった。


 ホワイトは笑顔を浮かべたままレッドに近付き、手に持った短剣を高く持ち上げる。


「クッ……」


 動けないレッドの頭に、ホワイトは短剣を軽く当てる。


「冗談だよ。私はここに遊びに来ただけだ。お前達と戦うのはまた今度にするよ」


 笑顔でそう言った瞬間、ホワイトの手の中から短剣が消える。


「将軍!」


 死神が屋上に現れ、ホワイトに駆け寄る。


「遅かったね、死神。結構手こずってたんだ」

「ちょっと遊び過ぎただけです」


 からかわれても、死神は余裕の笑みを崩さない。


「下に赤鬼執事が気を失って倒れている。後は君たちに任せるから始末は頼むよ」


 両膝を付いて動けないレッドに、死神は部下に命令するかのようにそう言った。


「とんだ休日になったわね。もう帰ろうか、死神」

「はい、その方が宜しいようですね」


 そう言うと、二人はすぐに屋上から去って行った。


 リーダーを失った戦闘員達は、パープルと赤鬼を残して撤退して行く。


 レッドは駆け付けた仲間に助けられた。その場に残されたパープル将軍と赤鬼執事はサイコレンジャー達に捕縛され、休日の海水浴場で起こった事件は終息した。

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