第10話 僕のヒーローはブルー(2)

「最近よくスマホいじってるけど、彼女でも出来たのか?」


 ブルーは作戦室で待機中に、レッドからそう聞かれた。優太とライン友達になってから、スマホをいじる時間が増えたのだ。優太は学校が終わると頻繁にラインしてくる。ブルーもすぐに返信するので結構忙しい。


「冗談でしょ、ハヤテさん。大地に彼女が出来る訳ないじゃん」


 ブラックが呆れたように言う。


「俺はファンの可愛い子とラインで忙しいんだよ」

「ええっ? 日本に一人しかいないファンの子が見つかったの?」

「二票入ってたのに、日本で一人って何だよ」

「もう一票は自分で入れたんでしょ」


(良いんだよ。一人でも心から応援してくれているんだから)


 確信しているかのようなブラックの言葉に、ブルーは事実なので表立っては何も言わずに、心の中で反論した。



 数日間ラインのやり取りを続けていて、ブルーは気になることが出来た。どうやら優太はクラスメイトに苛められているようだ。


 ブルーは心配になり、詳しく話を聞こうと、初めて会った場所から近い公園で休日に待ち合わせした。


「こんにちは、大地さん。どうしたんですか? 急に会おうって」

「ああ、ブルーのことで話がしたいと思ってな」

「それなら、嬉しいです」


 公園のベンチに座って、二人は話し出した。ブルーは苛めのことを聞き出したかったが、タイミングが難しい。


「あのさ、優太は何か悩んでいることはないか?」

「えっ? どういうことですか?」

「学校のこととか、友達のこととか……」

「ああ……」


 優太は悲しそうに下を向いてしまった。


「なんでも言って良いんだぞ。絶対に味方になるから」

「ありがとうございます。僕って人と違って変わってますから……でも大丈夫です。小さい頃からずっとですから」


 無理して笑う優太の顔が切ない。


「もし、言いたく無いんなら無理には聞かない。でもこれだけは忘れないでくれ」


 ブルーは気持ちが伝わるように、優太の目を真っ直ぐ見つめた。


「どうしても辛くなったら、絶対に誰かに助けを求めること。俺はいつでも話を聞くし、優太の為なら喜んで力を貸すよ。もし俺に言いたくなかったら、お父さんやお母さんでも良い。担任の先生や優しい先生、親戚のおじさんやおばさん、お爺さんやお婆さん、なんなら近所の店の店員さんでも良い。誰かに助けを求めてくれ。絶対に一人で悩まないこと。

 それから今居る場所が全てじゃない。逃げて良いんだ。きっと楽しく暮らせる場所はどこかに有る。今居る場所に絶望して諦めないでくれな」


 まだ小学生には難しかっただろうか。でも、優太は真剣に聞いてくれている。


「はい、分かりました。

 僕、ブルーさんの活躍を見ると勇気が出るんです。ブルーさんを好きだって言うと、みんなに馬鹿にされるけど、本当に元気が出るんです。だから、大丈夫です!」


(優太にとってブルーは尊敬するヒーローなんだ。優太の為にも頑張らないとな)


 二人はその後もブルーの話で盛り上がった。



 それからもブルーは優太の様子を心配してはいたが、しばらくは問題なくラインを続けていた。


 そんなある日の午後。


(大地さん、友達と口喧嘩になって、ブルーさんに会えるって言ってしまったんです。大地さんはブルーさんの知り合いなんですよね? ブルーさんに頼んで貰えませんか?)


 切羽詰まった様子で、優太からラインにそんなコメントが入った。


(何があったか詳しくは分からんが、優太がSOSを出してくるなんて余程のことだろう。これは絶対に行かないと)


 ブルーは、ブルーに会わせると約束して、前と同じ公園で待ち合わせした。


「ハヤテ、お腹が痛いので、悪いけど早退する」

「ああ、良いけど……」


 急に苦しそうな顔になったブルーを見てレッドは驚く。


「大丈夫? 酷いの? 病院に行く?」


 ブラックも心配そうにブルーに近付いて来る。


「ああ、ありがとう。でも家で寝てれば大丈夫だと思う。すぐに帰るよ」


 ブルーは有無を言わせぬ勢いでそう言うと、すぐ作戦室を飛び出した。


 道路でタクシーを拾い、ブルーは公園に向かう。


 途中で念じてみたが、ブルーの第六感でもこの先、良いか悪いか判断が付かない。未来が揺らいでいる感じだった。


 公園に着くと、ブルーは遠目から約束の場所を窺う。優太の他に三人の小学生が居た。


(とにかく変身して行くしかないか……)


「サイコチェンジ!」


 ブルーはリングのボタンを押して変身した。


「やあ、優太君、待たせたね」


 ブルーは変身した姿で優太たちの前に進み出る。


「ブルーさん!」


 優太の顔がパッと明るくなる。


「お前、本当にサイコレンジャーのブルーか?」

「コスプレしたおっさんじゃねえの?」


 優太と一緒に居た三人の小学生がブルーを取り囲む。三人とも悪ガキそうな面をしている。


「何を言うか。俺は本物のブルーだ」

「だったら何か閃いてみろよ」


 リーダー格の体格の良いガキが生意気なことをブルーに言って来る。


(ホント腹立つガキだな。こんな奴等に俺の第六感を使うのも癪だが、優太の為にやるしかない。閃け閃け……)


 ブルーは目を閉じて念じた。


「友情を信じろ!」

「友情を信じろ? 変なオッサン。こいつ絶対に本物じゃ無いな。やっぱり優太が嘘吐いたんだ。これからも無視決定だな」


 リーダ格はブルーの言葉を馬鹿にして信じない。


(クソッ、こいつらどこまで根性がねじ曲がってやがるんだ)


「僕は無視されても良い! でも、この人は本物のブルーさんだ!」


 優太はブルーの前に立ち、健気に反論する。


(なんとか優太の立場を守らないと。しかしどうするか?)


 ブルーは何とか優太を助けたいと思ったが、信用させる妙案は浮かばなかった。

 と、その時。


「ブルーさん! 遅れてすみません。ただいま到着しました!」


 困っているブルーに声が掛かる。声の方へ目をやると、公園の遊具の上にあの四人の姿が……。

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