第10話 僕のヒーローはブルー(1)
「今週は私が一位!」
作戦室で待機中、ブラックがタブレットを手に喜びの声を上げる。
「あっ、今週は若葉ちゃんに抜かされたのね」
「二千三百五十一票と二千三百三十票。少しの差で逆転したよ」
「俺は何票入ってた」
「剛士さんは四百五十六、ハヤテさんは六百七十三ね」
ブラックの周りにみんな集まり、タブレットを見ながら楽しそうに話をしている。
みんなが見ているのは、サイコレンジャーのファンサイトだ。人気回復策の一環として最近出来たサイトで、毎週人気投票のランキングが出ている。
「ねえ、大地。今週も二票入ってたよ!」
「あっ、そう。ありがと」
「もう、そんな拗ねてるから人気が出ないのよ」
ブラックに声を掛けられたが、ブルーは素っ気なく返した。
(二票入ってたからって、どんなリアクション取れば良いんだ)
「あっ、もしかして二票の内の一票は自分で入れたんじゃないの」
ブルーはブラックの言葉に、思わず飲んでたコーヒーを吹き出した。
「そ、そんなことしないっちゅうの!」
ブルーはブラックの嫌味を否定したが、実は一票自分で入れている。ブルーの心は駄々洩れなので、ピンクに心を読まれている可能性はあったが、彼女は大人だからそれを暴露するようなことはしない。
「ほら、このサイト、応援掲示板があるから自分でスレッド立ち上げてみたら? ファンとの交流も大事だよ」
「俺はいいよ。そんなことしなくても」
と言いつつも、実はスレッドこそ立てていないが、ブルーは匿名で自分を応援するコメントを何度も書き込んでいる。だが、いつも他のメンバーのファンに馬鹿にされて、共感されることは無かった。
「じゃあ、私が代わりに立ち上げてあげるよ」
ブルーが乗って来ないので意地になったのか、ブラックが自分でスレッドを立ち上げ始める。
「『こんにちは、ブルーです!』タイトルはこんなもんで良いか。コメントは『第六感で戦うから、みんな応援よろしくね』っと」
ブラックはそう言ってスレッドを立ち上げると、満足したのか自分の席に戻った。
「ちょっとトイレに行って来るか」
数分後、ブルーはそう言って席を立ち、作戦室を出てきた。言葉通りトイレの個室に入ったが、用を足したかった訳じゃない。
ポケットからスマホを取り出し、ファンサイトの掲示板を開き、ブラックが立ち上げたスレッドを読む。
「なんじゃこれ」
スレッドには結構な書き込み数があったが、ブルーを応援するコメントは一つも無かった。(ブラックやピンクの周りをちょろちょろするな)だとか、(第六感で戦うとか草生える)とか。
みんなの前では人気を気にしない素振りを見せていたブルーだが、さすがにこれを読んだら気分が落ち込んだ。
「あっ、大地」
作戦室に戻ると、ブラックが心配そうな顔してブルーを見る。
「あの……読んだよね?」
「なんだよ、読んでねえよ。トイレに行ってただけだし。大体あんなコメント気にしないし……」
ここまで言って、ブルーは自白したようなものだと気付いた。
「なんかごめん……」
珍しくブラックが素直に謝ったが、ブルーは上手い返しが出来なかった。
定時になって帰宅する電車の中。ブルーはもう一度掲示板を覗いた。
書き込みは増えていたが、やはり応援コメントは見つからない。
「あっ」
ブルーは思わず声を漏らした。一つだけ(ブルーさん頑張ってください! 応援してます)というコメントが有ったのだ。なんだかその一言だけで救われた気がした。
ふと、頭の中に次の駅で降りろと第六感の閃きがあった。
みんな第六感を占いレベルのように軽んじているが、ブルーは自分の勘を信じている。今までもこんな時は絶対に良いことが起きるのだ。
ブルーは次の駅で降り、自分の勘を信じて歩き続けた。
駅前の繁華街を抜け、住宅地に入って行く。車線も引いていないような生活道路を当てもなく歩いていると、先の曲がり角から大きな歌声が聞こえてきた。
「ブルーブルー……」
(こ、これは俺のテーマソングじゃないか!)
ブルーは街中では聴いたことのない不人気な自分のテーマソングを、この場で聴いて驚く。
「キリリと凛々しい瞳~ブルーブルー冷静沈着冴え渡る頭脳~」
(うわーやめてくれ、凄く嬉しいが、現実と違い過ぎて恥ずかしくなる)
ブルーは顔が熱くなり、へたり込んでしまった。
「お兄さん、どこか痛いんですか?」
顔を上げると、小学五、六年ぐらいの男の子が心配そうにブルーを見ている。眼鏡を掛けたひ弱で大人しそうな男の子だ。
「いや、大丈夫。屈伸運動してただけだから」
(あっ、歌声が消えている……)
「もしかして、さっきの歌は君が歌ってたの?」
「さっきの歌って『比類なき勇者ブルー』ですか?」
「そう、それ!」
(しかし、この昭和の香りがするタイトルはどうにかならんのか?)
「そうです。僕、サイコレンジャーブルーが大好きなんです!」
「ホントか! 俺もブルーが大好きなんだよ!」
「そうなんですか! もしかしてファンサイトの人気投票でブルーに入れているのお兄さんですか?」
「そうだよ! もしかしてもう一票は君か」
「そうです! 嬉しいな! 日本で二人しか居ないブルーのファンに会えるなんて凄い奇跡です!」
(ホントにそうなんだけど、一人は本人なんだよな。しかし、この子以外は日本に俺のファンが居ないってことか……)
ブルーは喜んで良いのか、複雑な心境だった。
「お兄さんはブルーのどんなところが好きなんですか?」
「どんなところって、全部だよ。あれだけの男は他に居ないしな。それに俺はブルーと知り合いなんだぜ」
余りにも少年が嬉しそうなので、ブルーはつい調子に乗って余計なことを口走ってしまう。
「凄い! 良いなー。僕もブルーに会いたいです!」
キラキラした瞳でそう言われると、複雑な心境など吹き飛んでブルーは嬉しくなった。
少年の名は白川優太(しらかわゆうた)。二人は名乗り合い、ラインを友達登録して別れた。
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