第6話 ピンクの過去(1)
「もう一週間になるか……」
作戦室に入って来た緑川本部長がため息交じりにそう言った。
サイコレンジャー達がダーティーワーズパンサーを撃退して一週間が経った。実はその翌日から、体調不良を理由に、ピンクが機構本部に出勤していないのだ。
「私の所為だ。私があんなことを考えてたから……」
ブラックが立ち上がり、泣きそうな声でそう言った。
「あんなことって、そんないやらしいこと考えてたのか?」
ブルーが真顔でブラックに聞く。
「あんたと一緒にしないでよ!」
「ひえっ……」
ブラックにマジ切れされてビビるブルー。
「私、パンサーを倒してくれたピンクに感謝していたけど、実は心の中では怖いと思ってたの。もし自分もパンサーみたいに心の中を覗かれたら、立ち直れなくなるかもって……。ピンクがそんなことする訳が無いのに、怖いと思ってしまったの……」
ブラックは下を向いて、悲しそうに心の内を吐き出す。
「実は私もだ。あの時、ピンクを恐ろしいと思ってしまった。もちろん、味方として信頼している。でも、あの一瞬だけは恐怖を感じていたんだ。私はリーダー失格だよ」
レッドも俯いて懺悔する。
「すまん、俺もだ。あの時、自分の意識を読み取られたらって思ってしまった。きっとピンクには伝わってたんだ……」
イエローまで懺悔に加わる。
「うわあー、みんなそんなこと考えてたんだ。引くわー」
「ブルーに言われると、なんかムカつく!」
「ひえっ!」
三人に睨まれ、またもビビるブルー。
「みんな自分を責めるな。今回のことは私が全面的に悪かった。ピンクにも大きな負担を掛けてしまった。本当に申し訳ない」
緑川本部長がメンバーに頭を下げる。
「いや、リーダーの私が悪いんです」
緑川本部長に続き、レッド達も、私が私がと自分を責める。
「はいはい、みんなが悪いんです。でも、ここで謝ってても仕方ないでしょ。後はこのブルーさんに任せなさい」
一人罪の無いブルーは手をパンパンと叩きながら、ここぞとばかりに胸を張った。
閑静な高級住宅街にある立派なお屋敷。ピンクはパンサーとの戦い以降、このお屋敷にずっと引きこもっていた。
ここに住んでいるのはピンクと、住み込みのお手伝いさんである芳江(よしえ)という初老の女性の二人だけ。ピンクには両親と妹が居るのだが、三人は別の場所で暮らしている。
ピンクは特に体のどこかに異常がある訳では無かった。ただ、今までと同じように作戦室に行って、サイコレンジャーとして活動する気にはなれなかったのだ。
ピンクが自室のベッドの上で本を読んでいると、コンコンとドアがノックされた。
「お嬢様、お昼ご飯をお持ちしました」
「ありがとうございます。入ってください」
芳江がドアを開けて、ピンクの部屋に入って来た。部屋は女性とは思えぬ程シンプルで、シングルベッドと中央に丸いテーブル、隅に大きなデスクが置いてあり、その横には大きい三台の本棚にびっしりと本が詰まっていた。
「お食事はテーブルに置いておきます」
「ありがとう、芳江さん」
芳江は中央にあるテーブルの上に昼食が乗ったトレイを置いて、部屋から出て行った。
ピンクは体を動かしていないので、お腹は空いていなかった。だが、食べないと芳江に心配掛けるので、仕方なくテーブルに着いた。
(私はまた同じことを繰り返している。このまま、前と同じように家から出れなくなったらどうしよう)
ピンクは食事をしながら、自分の過去を思い出していた。
ピンクの読心術を最初に気付いたのは母親だった。
ピンクの能力が開花したのは、まだ幼稚園に行き始めたばかりの頃だった。母はピンクと会話していて、娘が自分の気持ちを読み取って話していることに気付く。口に出していない言葉に返事を返す娘を、母は酷く恐れた。
ピンク自身も幼く、自分の能力がどれほど相手に脅威なのか理解出来ていなかった。能力を隠すことをせず、相手の伏せて置きたい心の中まで入り込んでしまう。母は恐怖により、ピンクに接することが出来なくなった。
幼いピンクは一人家族と離れ、この家で芳江と暮らすことになる。父はピンクを切り捨てることで、妻と妹を守ろうとしたのだ。
幸い、実家が裕福だったこともあり、暮らしに困ることは無かった。芳江はピンクの能力を知っても恐れることも無く、家族から見捨てられた少女に良く尽くしてくれた。
ピンクは自分の読心術が他人に脅威だと、幼いながらも理解した。芳江と暮らすようになって以降は、能力を隠すことを覚え、トラブルも回避出来ていた。だが、心を読もうとは思わなくても、悪意のある思いは否が応でも伝わって来る。だんだん慣れはしていったが、自然と人間不信になっていった。
高校生となったピンクに、初めて親友が出来た。名前は片瀬由美(かたせゆみ)。彼女は地味でクラスでも目立たない存在だったが、ピンクが初めて出会った心優しき女の子だった。一緒に居ても、悪意を受けることなく安心出来る。初めて芳江以外の心を許せる人となった。
「実はね、私、好きな人が出来たの」
高校三年になったある日、ピンクは由美からそう告白された。ピンクは初めて知ったように驚いたが、すでに少し前から相手が誰かも知っていた。
「相手はね、高橋君なの」
「ええっ、そうなんだ!」
ピンクは驚いてみせたが、どうしたら良いかと悩んだ。出来ることなら自分に打ち明けて欲しく無かった。高橋はとても賛成できる相手では無かったからだ。
高橋は明るくクラスのリーダー的存在で女子からも人気のある男子だった。だが、その心の内は醜く、常に他人を見下している。自分は利口だと確信している為か、警戒心も無く、悪意が駄々洩れだった。ピンクにとって近寄りたくもない男だ。そんな高橋を、親友の由美が好きだと言うのだ。とても応援できる相手ではない。
幸いなことに、由美は高橋に告白する勇気は無いようだった。高橋と自分を比べて釣り合いが取れないと彼女は考えていた。
出来ればこのまま告白せず、片想いのまま卒業して欲しいと、ピンクは願っていた。だが、その願いは予期せぬ方向で崩れていく。高橋の方が由美に近付いて来たのだ。
ピンクは気が進まなかったが由美の為と思い、高橋の意識を読み取った。結果、高橋は由美を好きになった訳ではなかった。由美が自分に気が有るのを感じて、体目当てに近付いて来たのだった。
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