第5話 ピンクの新兵器(3)

「あなた、怪人になったことを後悔してるのね」

「なに?」


 ピンクがぼそりと呟いた言葉に、パンサーの声が動揺する。


「怪人になった所為で自分は醜くなったと思ってる。そう思い込んだ方が気持ちも慰められるからね。元々醜かったのに、それを忘れられるから」


 改造人間となったパンサーは素顔が見えないので、美しいとか気にする必要は無いのだが、心を読んだピンクはそれが弱点と見て、自信を持って言い切る。今までのピンクは読心術を相手への攻撃に使うことは無かったのだが、新兵器の効果が現れているようだった。


「違う、私は元々は美しかったんだ。怪人に改造されたから醜くなったんだ」


 パンサーの声に明らかな動揺を感じる。まるで箱の中で悶えているみたいだ。


「まあ、美醜についてはどうでも良いでしょう。それよりも問題なのは、あなたがまだ人間だった頃、自分より美しいと感じた人を徹底的に苛め抜いて、再起不能に陥らせたこと。私はそれが許せません。あなたは心が一番醜い」

「違う……違う……。あいつらが……」

「努力して高みを目指すことをせず、ただ目の前の相手の欠点を突いてマウントを取るだけ。ああ醜い。汚らわしい」


 トランス状態のピンクの厳しい攻撃が続く。


「あなたの意識を覗いたら、もっと面白い物がドンドン出てくるわ。みんなに教えてあげましょうか? 例えばあなたが振られた男にした嫌がらせとか……」

「や、やめてくれえええ!!」


 パンサーの戦闘モードが解け、元の姿に戻る。気力を使い果たしたのか、倒れて立つことも出来ないようだ。


「恐ろしい女だ……綺麗な顔をしているが、鬼のような心を持っている……」


 パンサーは心底怯えながら、戦闘員に支えられてワルダーの車で逃げて行った。


 ピンクはワルダーの車を見送ると、ガクッと片膝を着いた。ピンクの瞳はトランス状態から通常に戻る。


「ああっ……私はなんて酷いことを。相手のトラウマをナイフでえぐるようなことをしてしまった……パンサーの言う通り、恐ろしい女だ……」

「お前が悪いんじゃない。このチョーカーは相手の悪意に反応してカウンター攻撃するように作られているんだ。だからパンサーの自業自得なんだよ」


 緑川本部長がピンクの肩に手を置き慰める。


「ピンク、君が居なかったら、もっと被害が大きくなっていた。パンサーを撃退してくれてありがとう」


 レッドも手を貸し、ピンクを支える。イエローとブラックも、口々にピンクの活躍を称えた。


「カッコ良かったよ、ピンク! 奴の言うことなんか気にしなくても良いぜ」


 ブルーは無邪気にピンクを褒め称える。


「ありがとう、みんな……」


 ピンクはお礼を言うが、酷く疲れて青ざめた顔をしている。


「よし、我らも引き上げよう」


 見事ダーティーワーズパンサーを撃退したサイコレンジャー達は、ヘリに乗って機構の本部へ引き上げた。



 ワルダーアジトの採石場の敷地内を、白いトレーニングウエアを着たホワイト将軍とシルバーグレイのウエアを着た死神執事がランニングしている。


 スマホの呼び出し音が鳴ったので、死神執事は走りながら電話に出た。


「はい……そうか、分かった。将軍には俺から話しておく」


 要件が終わり、死神執事は電話を切る。


「何の電話?」

「パンサーがサイコレンジャーにやられて帰って来たようです。かなりのダメージで、もしかしたら再起不能かも知れないとのことです」

「えっ? パンサーが? ラッキーじゃん。私、あいつが嫌いだったんだよね。いつも悪口ばかりで場の空気を悪くするし。居なくなってくれた方が良いくらいだよ」


 ホワイト将軍は立ち止まって喜ぶ。


「ちょっと、将軍。困りますよ、部下のことをそんな風に言っては」

「私の部下はお前だけだ。後はどうでも良い。死神さえ居てくれたら私はそれで良いんだよ」


 将軍は嬉しそうに死神執事と肩を組む。


「私の望みはホワイト将軍に世界の覇者となって頂くことです。私だけが部下では困ります。トップとしての度量を持ってください」


 死神は嬉しさをかみ殺して、冷たい態度を取る。


「もう、ホントは嬉しい癖に」

「やめてくださいって」


 ホワイト将軍は死神将軍のほっぺを人差し指で突き、迷惑そうな顔の死神執事を見て笑った。

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