第5話 ピンクの新兵器(1)
「あっブルー、喉が乾いたから自動販売機で『シャカリキオレンジ』買って来てくんない? 私いま、小銭無いからお金も出しておいてよ」
作戦室で待機中の午後、動画に飽きたのか、ブラックが伸びをしながらブルーに頼む。
「ええっ……ジュースくらい売店で買えば小銭要らないだろ」
「私は自動販売機の『シャカリキオレンジ』が飲みたいの。文句言わないで買って来てよ」
ブルーにはそうされる覚えは無いのだが、最近なぜかブラックから完全に格下扱いされていた。何かにつけてブルーにちょっかいを掛けて来るのだ。
「いや、俺も小銭無いし」
ブルーもはっきり嫌だと断れば良いのに、中途半端な言い訳を言ってしまう。
「嘘よ、右のポケットの小銭入れにちゃんと入ってるじゃない」
ブラックはそう言うと、またタブレットで動画を観始めた。
「だからって、なんでお前のパシリになんなきゃいけないんだ」
「だって、あんたそんなことぐらいしか役に立たないでしょ」
ブラックがブルーに目もくれずにそう言い放つ。
(どうしてこいつは俺にだけこんな横柄な態度になるのか? 俺以外のメンバーや組織の職員たちには愛想が良いのに。変に顔が可愛いだけに、余計に腹が立つ)
(ハッ! まさかツンデレってやつか? ブラックは俺のことが好きで、それを素直に表せないから、逆に敵対的な態度を取ってしまうとか……なんだ、それなら素直に好きと言えば良いのに……)
その時、急にピンクが「プハッ」と吹き出し笑いをする。
「もう、笑わせないでよ」
タイミングよくピンクが吹き出したのでブルーは驚く。だが、ピンクは雑誌を読んでいて、ブルーの方は見ていなかった。
(なんだ、雑誌のことか。俺のことで笑ってるのかと思った)
「あなたのことに決まってますわ、ブルー」
「えっ!? 俺のことなの?」
(どういうこと? ブラックが俺のことを好きってのが、有り得ないってことか?)
「そりゃそうよ。なんなら私が本人に聞いてあげましょうか?」
「いや、やめてくれ! それに勝手に心を読むのはマナー違反だろ!」
「ブルー。私にとってあなたは、近くで勝手に独り言を呟いている人と同じなのよ。他の人と違って、あなたの意識は聞きたくなくても勝手に耳に入って来るの。むしろ雑誌を読む邪魔をされて、迷惑しているぐらいなのに」
ピンクは珍しく、怒ったように反論する。
「ええっ……別に聞かそうとは思って無いのに……」
「あなたは警戒心がなさ過ぎなのよ。もっと用心して頂戴」
「なに、ピンク。こいつまたいやらしいこと考えてるの?」
二人の会話に興味を覚えて、ブラックが会話に入って来る。
「いやらしいこととは聞き捨てならんな。ブルーが何を考えてたって言うんだい?」
ブラックに続いてレッドまで関心を寄せてきた。
「ブルーが何か企んでいるんなら、俺が何とかしてやるぞ」
イエローまで意気込んで来る。
「そんな、みなさんで大袈裟にする程では無いんですけどね。実は……」
「ああ……もうやめて、買ってくるから。なんなら、みんなのジュースも買ってくるから、勘弁して」
結局ブルーはみんなの分まで、お金を出して買って来るはめになってしまった。
(しかし、ブラックの暴言は無視すりゃ良いが、ピンクには困ったな。用心してと言われてもどうすりゃ良いんだ?)
「おっ、ブルーちょうど良かった。今から作戦室に行くところだったんだ。一緒に行こう」
ジュースを買って作戦室に帰る途中で声を掛けられた。
「あっ、緑川統括本部長!」
振り返るとそこに緑川統括本部長が立っていた。彼女は齢八十八歳。背丈こそ低いが腰はシャンと伸びていて、頭脳明晰、言葉も明確、バリバリの現役なのだ。聞いた話では、あのゴ〇ンジャーの頃から幹部として働いているらしい。今はこの機構の責任者的な立場だ。
「今日は何の用なんです?」
「今日はピンクに良いものを持って来たのさ」
緑川本部長はニヤリと笑った。
「これを私にですか?」
作戦室に戻ると、緑川本部長はピンクに、ピンク色のチョーカーを一つ手渡した。
「それはピンクの読心術の能力を最大限に利用できる装置なんだよ。本来後方支援的な能力を攻撃的に使えるのさ」
「攻撃的にって……」
「まあ、実際に使えば分かるさ。なんなら私の頭を覗いてみるか?」
「いえ、それは遠慮します」
ピンクは自分の首にチョーカーを着けた。
「次の出撃には私も付いて行くからね」
「本部長、それは危険です。無理ですよ」
「黙らっしゃい! あんたが生まれた時には、私はもう悪と戦っていたんだからね。心配ご無用」
レッドが止めたが、緑川本部長は聞き入れようとはしない。
とその時、天井のパトランプが回りだして警報ブザーが響く。
「みんな出撃だよ!」
「はい! サイコチェンジ!」
緑川本部長の掛け声にレッド以外が応え、リングのボタンを押して変身する。
「私の台詞なのに……」
「レッド!」
「はい! サイコチェンジ!」
ブツブツ言ってたレッドも、本部長に促され、ボタンを押して変身した。
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