第4話 イエローの恋(3)

「みんな、どうしてここに?」

「この人はイエローが怪我をさせたんだ」


 ブラックはイエローに近付き、店長さんを見て話す。


「俺が?! 俺が店長さんに暴力を振るう訳はないだろ!」


 イエローは、ブラックがなぜそう言うのか、理解出来なかった。店長さんは、急に現れた四人が何者か分からず、呆然とする。


「この人は、この前の女性戦闘員なんだよ」

「ええっ!」


 イエローと店長さんは同時に驚く。


「どうしてそれを……それに、あなた達は何者なんですか?」


 店長さんは訳が分からず、ブラックに質問する。


「サイコチェンジ!」


 ブラックは腕のリングのボタンを押し、サイコレンジャーブラックに変身する。


「あなたは、サイコレンジャー……」

「私は透視能力があるんです。だから戦闘の度に、戦闘員の素顔を見ているんですよ。もし、街で会ったら、戦闘員を辞めるように説得しようと思って……」


 店長さんはブラックの言葉を、驚きの表情で聞いている。


「どうして、あなたは戦闘員になっていたんですか?」


 イエローはまだ信じられないと言った表情で、店長さんに訊ねる。


「……お金の為です……」


 店長さんは観念したように語りだした。


「この店は、五年前に夫と二人で始めました。大繁盛とはいきませんでしたが、何とか二人で頑張って続けていました。でも、二年前に夫が事故で亡くなって……」


 悲しい瞬間を思い出したのか、店長さんの表情が曇る。


「保険で店の借金は無くなりましたが、一人で経営を続けていくのは大変で……。でも、夫との思い出が残るこの店を閉めることは私には出来ないんです。パートタイムで戦闘員をやって、なんとか凌いで行こうと考えたんです……」


 店長さんは感情が昂って涙を流す。


「そうだったんですか……でも、俺はあなたを危険な目に遭わせたくない。どうにか戦闘員を辞めることは出来ないんですか?」

「気持ちはありがたいですが、私にはそうするしか方法が無いんです……」


 店長さんはイエローの言葉に首を振る。


「大丈夫! 店長さん、戦闘員を続ける必要は無いぜ」

「ブルー!」


 前に進み出て来たブルーに驚くイエロー。


「俺の第六感が閃いたんだよ。絶対に上手くいく。店も続けていけますよ、店長さん」

「ホントですか?」


 ブルーの言葉を聞き、店長さんの表情に希望の色が浮かぶ。


「ブルー、そんな安請け合いして良いのか?」


 レッドがブルーの後ろに来て、心配そうに声を掛ける。


「なるほど。それは良いアイデアね」


 一歩後ろに控えていたピンクが呟く。


「ああ、ピンク、意識を読むのはやめてくれよ」

「ブルーは読みに行かなくても駄々洩れなのよ。うるさ過ぎるから、もっとガードして欲しいくらいだわ」


 ピンクがブルーの抗議に言い返す。


「ピンクが賛成してくれたんなら安心だな」


 イエローが嬉しそうに言う。


「もう。閃いたのは、俺の第六感なのに」


 ブルーがわざとらしく拗ねて見せると、みんなが笑顔になった。



 週末になり、サイコレンジャーのメンバーは山岡お弁当店に、変身した姿で集まっていた。店頭に出ているイエロー、レッド、ピンクは、集まった多くの市民からのサインや写真撮影の求めに応じながら、にぎやかにイベントを盛り上げている。


 サイコレンジャーのメンバーは、自身のSNSや公式ホームページで「サイコレンジャーのメンバーに会えるお弁当屋」プロジェクトを始めた。この週末に山岡お弁当店に来店すれば、写真撮影とサインが貰えるイベントだ。


「唐揚げ弁当三つですね! ありがとうございます!」


 店内では、戦闘服の上にエプロンを着けたブラックが元気よく接客している。


「ブラックさん、エプロン姿が可愛いー!」

「ありがとう!」


 ブラックはスマホで撮影しようとしている女子高生に、ピースでポーズを決める。


「ねえ、どうして俺だけ中でお弁当作るお手伝いなの? サインや写真撮影は?」

「店長さん一人じゃ大変だから、誰かが手伝わなきゃいけないでしょ! なら一番人気の無いブルーが適任じゃない」


 調理の手伝いをしているブルーが不満そうに文句を言うが、ブラックに論破される。


「すみません、こんなにお客さんが来るのは初めてで、一人じゃ回らなくて……」

「いえいえ、全然大丈夫ですよ、もう料理するのが楽しくて楽しくて!」


 申し訳なさそうに謝る店長さんに、カラ元気で応えるブルー。



 大反響でサイコレンジャーの来店イベントは終了した。メンバーたちは変身を解いて、普段着の姿に戻っている。


「本当にありがとうございました」


 店頭で店長さんがメンバーにお礼を言う。


「いえ、今日はお客さんが沢山来てくれて良かったですね。これからも応援しますから頑張ってくださいね」


 レッドはそう言って、店長さんのお礼に応える。


「じゃあ、イエロー、私達は先に帰るね」


 ブラック達はイエローを残して、店を去って行く。


「これからも宣伝は続けますし、俺達の昼ご飯も、ここのお弁当を採用してもらうように話を付けました。これで戦闘員をやらなくても、店を続けていけますよね」

「はい、本当にありがとうございます。何とお礼を言って良いか……」

「あの……」


 イエローは店長さんに想いを伝えたいと思った。


「はい?」


 店長さんは不思議そうな顔でイエローを見上げる。


「あの、これからも美味しいお弁当をよろしくお願いします」

「はい、もちろんです。毎日イエローさんをお待ちしていますね」


 店長さんは穏やかな笑顔で応えた。その顔を見ているだけで、イエローは十分に幸せだった。


「じゃあ、俺も帰ります」

「はい、お気を付けて」


 イエローは店長さんに見送られて、店を後にした。想いを伝えることは出来なかったが満足だった。今、このタイミングで告白すると恩着せがましくなるから。もっと、もっと親しくなれるように頑張ろうと、イエローは心に誓った。

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