第4話 イエローの恋(2)

 ある日、サイコレンジャーのメンバーは繁華街に出没したワルダ―一味を退治する為に出撃していた。


「ふん!」


 イエローは戦闘員の頭に一撃を喰らわす。


「きゃあ!」


 イエローの攻撃を喰らった戦闘員が、か弱い悲鳴を上げて倒れる。最近はパートタイムで、戦闘員として働く女性が居るのだ。


「あっ、大丈夫ですか?」


 相手が女性と気付き、思わず介抱しようとする心優しきイエロー。


 だが、周りで見ていた戦闘員は「ヒーローが女性に手を上げたよ」とヒソヒソ話す。全く非は無いのだが、罪悪感を覚えて焦るイエロー。


「あーあ」

「ちょ、ブルー何言ってるんだ」


 イエローの横でブルーが呟く。


「あーあ」

「なっ、ブラックまで!」


 ブルーの横でブラックまで呟く。


「まさかイエローが女性に……」

「おい、ちょっと待ってくれよ、ピンクまでそんな……」


 三人とも冗談でからかっているのだが、予想以上に狼狽えるイエローであった。



 女性戦闘員を攻撃してしまった翌日の定時後、イエローはいつものように山岡お弁当店に向かっていた。


(昨日は酷い目にあった。ブルーたちにからかわれたり、帰りに寄ったお弁当屋さんが臨時休業していたり。今日こそ店長さんを見て癒されよう)


 山岡お弁当店に着くと、今日は営業していて、イエローはホッとした。


「こんにちは、お弁当お願いします」

「あ、はい、いらっしゃいませ!」


 イエローが店頭で挨拶すると、奥から頭に包帯を巻いた店長さんが出て来た。


「どうしたんですか?! その頭の怪我は?」


 イエローは驚いて彼女に質問した。


「あ……いや、あの……階段から落ちたんです……」


 店長さんは慌てた感じでそう言った。


「階段から?」

「そ、そうです、私はドジだから階段から落ちてしまって……」


 店長さんは気まずそうな笑顔でそう言った。イエローはいつもと違うその笑顔で、彼女が嘘を吐いていると感じた。


(階段から落ちたら、頭以外にもどこか怪我をするよな……手は怪我無く綺麗だし、動きもスムーズだった。まさか……)


 その時のイエローの頭に浮かんできたのは、DⅤの文字だった。


 詳しく話を聞きたかったが、プライベートな部分だけに、突っ込んで聞く勇気が出なかった。結局いつものお弁当を買って、そのまま店を離れてしまう。イエローの頭の中には、店長さんが旦那に暴力を振るわれるシーンが何度も現れ、その度に焦りや腹立たしい気持ちが湧いて出て来た。


 

 次の日、出撃も無く定時となった。イエローは一日中、店長さんの怪我のことで頭が一杯で憂鬱に過ごした。


「あの、ピンク……」

「はい? どうしたの、イエロー?」


 帰り際にイエローはピンクに声を掛けた。ピンクに頼んで一緒にお弁当屋に行って貰い、店長さんの意識を読み取り、怪我の原因を知りたいと考えたのだ。もし予想通り旦那のDⅤが原因なら、プライベートなこととか関係なく、強引にでも旦那から引き離すつもりだった。


「あっ、いや、ごめん、何でもない」


 だが、イエローはピンクに頼む決心がつかず、言葉を濁して作戦室を出て行った。



「イエローはどうしたんだろう」


 その様子を見ていたブラックは心配そうに、ピンクに話し掛ける。


「なんか今日一日中様子が変だったよな。ピンクは何か分からないの?」


 ブルーもブラックと同じ気持ちで、ピンクに訊ねる。


「直接イエローの意識を読み取った訳ではないけど……」

「何か分かったのかい?」


 レッドまで心配そうに、話に加わって来る。


「頭の中にDⅤって文字が浮かんでたの。それで、私に誰かの意識を読み取って欲しそうだった……」

「DⅤ?」


 他の三人が声を合わせる。


「イエローの後をつけてみようよ。仲間なんだし、放っておけないよ」


 ブラックがみんなにそう訴えた。いつもは嫌味やからかいが多いブラックだが、肝心な部分では一番仲間想いの人であった。


「ブラックの言う通りだ。俺の第六感も後をつけろと言ってるよ」

「そうしよう。私達はチームだからな」


 ブルーとレッドの言葉に、ピンクも無言で頷く。



 機構のビルを出たイエローは、また山岡お弁当店に向かっている。


(もし店長さんが旦那からDVを受けているのなら、絶対に助けないといけない)


 ピンクに頼むことは出来なかったが、イエローは店長さんに直接怪我の理由を聞こうと決心していた。


「こんにちは!」


 店に着いたイエローは、店頭で挨拶する。


「あっ、いらっしゃいませ! いつもありがとうございます!」


 奥から店長さんが出て来て、笑顔で迎えてくれた。だが、頭の包帯は昨日のままで痛々しい。


「今日もいつものお弁当でよろしいですか?」


 イエローは念のため、店長さんの様子を観察していた。やはり、頭の怪我以外は問題なさそうだった。


「あの……お弁当はいつもので良いんですが、ちょっとお聞きしたいことがあって……」

「はい……何でしょう?」


 店長さんは、いつもと様子の違う真顔のイエローに少し戸惑う。


「その頭の怪我は本当に階段から落ちたんですか? もしかして、旦那さんにDVを受けているんじゃないですか?」

「ええっ、DV?! い、いや、違います、これは階段で……それに私の夫は……」


 店長さんはイエローにDVかと聞かれて驚く。


「その怪我は階段から落ちたとは思えないんです。もし、暴力を受けているのなら、あなたを助けたいんです」


 イエローは真剣だった。自分の勘違いで呆れられるならそれでも良い。でも、もし本当にDVを受けているのなら、何とか助けたいと考えていた。


「イエロー。その人はDVを受けているんじゃないよ」

「えっ?」


 急に後ろから声を掛けられて驚くイエロー。振り返ると、ブラックを先頭に、サイコレンジャーのメンバーが揃っていた。

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