第3話 焼き鳥戦争勃発(1)

 午後三時の作戦室。メンバーのスマホのアラームが一斉に鳴った。


「よし、三時だ!」


 レッドの言葉に、みんなが頷き立ち上がる。


「今日は絶対に三番を取る!」


 二回連続一番を引いたブラックが決意に満ちた表情で呟いた。他のメンバーも怪人と戦う時より瞳が輝いている。


 メンバー達の熱い戦いが今始まる。



 あれは一週間前、午後三時の作戦室での出来事。


「ちょっと、ブルー! 凄い匂いなんだけど、何食べてんのよ!」


 ブルーがおやつにして食べようと、売店で買った焼き鳥セットのパッケージを開けたらブラックが文句を言ってきた。


「えっ? 何って、売店で買った焼き鳥セットだけど。前から気になってたんだけど、今日は勇気を出して買ってみたんだ」

「うわっ、あれ買ったんだ」


 ブラックがワザとらしく、顔をしかめる。


「あっ、あれ買ったんだ! 実は俺もずっと気になってたんだけど、量が多いから躊躇してたんだよな。お金出すから分けてくれないか?」


 ブルーがブラックに説明しているのを聞いて、イエローが食い付いて来た。


 なぜこの対特殊組織防衛機構内の売店で、お惣菜である焼き鳥セットが売られているのか? 謎だったのだが、他にも気になっていた仲間も居たんだとブルーは嬉しくなった。


「ああ、良いよ。一人じゃ多過ぎると思ってたから、有難いぐらいだよ」


 このセットは四種類が三本ずつの計十二本入っていて、結構ボリュームがあるのだ。


「実は私も気になってたんだ。仲間に入れてくれないか?」


 話を聞いて、レッドまで乗ってきた。謎だった焼き鳥セットだが、結構需要があったのだ。


 レッドの発言の後、ブルーがふと気付くと、目の前でおずおずと手を上げている人が居る。ピンクが小さく手を上げて、恥ずかしそうにこちらを見ていた。


「私も焼き鳥って食べたこと無くて、気になっていたの……」

「もちろん、二人ともオッケーだよ。なんだ、最初から相談したら良かったな。じゃあ、どうやって分けようか」


 ブルーがそう言うと、ピンクの顔が子供のように、パッと明るくなった。未知の食べ物に出会う喜びなんだろう。


「あ、あの……」


 ブルーは声の方を振り返った。ブラックが珍しく愛想笑いしている。


「どうしたんですか? ブラックさん」

「いや、一人だけ輪の中に入らないってマズいよね。チームなんだし。私も入ってあげても良いわよ」


(ホントにもう、ツンデレかよ。素直に仲間に入れてくれって言えば良いのに)


「いえ、四人だとちょうど三本ずつ割り切れるので、お気遣い結構ですよ」


 ブルーはブラックの気持ちを分かっていながらも、ちょっとだけいつもの仕返しをしてみた。


「じゃあ、もういい。四人で食べれば!」

「ごめん、ごめん、冗談だって。一緒に食べよう」


 ブルーは意地悪を言って拗ねさせたことを謝って、ブラックと仲直りした。


「じゃあ、せっかく全員で食べるんだから、ゲームにしようぜ」

「ゲームってどうするんだ?」


 イエローが提案者のブルーに聞く。


「代金もみんなで分けるんじゃ無くて、負けた人の一人払いにするとか。その代わり、どの焼き鳥を選ぶかはその人から順番にすれば良い」


 焼き鳥は「ネギま」「もも」「つくね」「ハツ」の四種類が三本ずつで計十二本。二人は三本で三人は二本となる。


「面白そうね。じゃあ、じゃんけんでもしましょうか」

「それでも良いね」


 ブルーはピンクの言葉に同意する。


「ちょっと待てよ。ピンクとブルーはじゃんけんで負けたことが無いって、自慢してたじゃないか」


 前にブルーとピンクがじゃんけんの頂上決戦をしようとして、お互いに相手の手を読み合い過ぎて、勝負が成立しなかったことをイエローは思い出したのだ。


「じゃあ、何かの箱に一から五までの数字を書いた紙を入れて、くじ引きすれば良いじゃない」

「お前透視するつもりだろう」


 ブルーはブラックの提案を却下した。


 結局あみだくじになり、くじを作るブルーは最後に残ったところを選ぶことになった。結果が出るまで、レッドは手を後ろで縛って、線を書き込む不正を防止するほどの徹底ぶりだ。みんな結構ガチだった。


 それ以来、毎日三時になると、みんなで焼き鳥を賭けた熱い勝負を楽しんでいる。



「これで一週間連続で支払い無しだ」


 今日もブルーは支払いを逃れた。たいした金額では無いが、くじに勝てるのは気分が良い。


「五分の一を三回連続ってどれだけの確率なのよ。明日こそは絶対に三番を取るから」


 ブラックがまた一番を引いて、泣きべそを掻く。


 一番は代金の支払い、二番は買出しなので、三番が一番良い。好きな物を選びやすい位置だし、もし五番になると二本の内の一本は「ハツ」になってしまうからだ。


 運の悪いことに、ブラックは三回連続で一番を引いて、代金払いとなってしまった。


「さあ、みんなで食べよう」


 焼き鳥の配分も終わり、レッドがそう言った瞬間、天井のパトランプが回りだして警報ブザーが響く。


 いつもならレッドが素早く出撃と叫ぶのだが、今は全員が焼き鳥を前にして、顔を見合わせている。


「無視しよっか」

「駄目だ! 残念だが出撃!」


 ブルーの言葉は速攻で却下された。


(たまにはサボっても良いと思うのに)


「はあーい」


 みんな気合の入らない返事をして、戦闘スーツに変身した。

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