第3話 焼き鳥戦争勃発(2)

「今日は秒殺で決めて戻って来るよ」


 ヘリコプターで移動中、ブラックが怒りに満ちた表情で呟く。


「私達の憩いの時間を邪魔した罪は償って貰いますわ」


 普段は優しいピンクまで激おこだった。


「閃いた。今日は全員で協力すれば上手くいく」


 ブルーの第六感がそう教えてくれる。


 レッドやイエローも同じ気持ちで、ヘリコプターの中は殺気立っていた。



 今日はフライドチキンのチェーン店に怪人が出現したとの情報だ。


「俺の仲間を食べやがって! こんな店は破壊してやる!」


 ブルー達が現場に着くと、戦闘員と大きなニワトリの怪人が店で暴れている。


「出たなチキンチキン! 貴様の好きには……」

「イヤーッ! サイコレンジャーが出た! 怖い!! た、助けてー!!」

「うるさい! 最後まで言わせろ!」


 レッドの決め台詞の途中なのに、大声で泣き叫ぶチキンチキン。その名の通り、臆病者のようだ。


(しかし、臆病なニワトリか、ニワトリが臆病か、どっちなんだろう?)


 ブルーは泣き叫ぶ怪人を見て、そんな疑問が沸き上がって来た。


「戦闘員のみなさん、サイコレンジャーの相手をして! 私は逃げるから!」


 チキンチキンは羽をばたばたさせながら、自分一人店を出て逃げようとする。


「ブルー、ピンク、ブラック、戦闘員を頼む! 私とイエローは奴を追う!」

「了解!」


(なんだか初めてヒーロー戦隊らしく戦っている気がする。ここは女性陣の前でカッコつけるチャンスだ!)


 ブルーは勇んで、ブラックとピンクの前に進み出た。


「戦闘員は俺一人で十分だぜ! 全員で掛かって来い!」


 ブルーがそう叫ぶと、戦闘員達は一斉に突進してくる。


「あっ、いや、ごめん、やっぱり一人じゃ無理」


 ある程度分散するかと、ブルーは甘い見込みをしていたのだが、本当に自分一人に集中してきてビビる。


「もう、ホント、どこまで馬鹿なのよ!」


 カッコつけるつもりが、逆にブラックに怒られるブルー。


 結局三人で協力して、襲い掛かって来る戦闘員を蹴散らした。


「助けて、お願い、助けて! もうしません!」


 レッドとイエローもチキンチキンを倒したみたいだ。特殊ケーブルで捕縛されたチキンチキンが連れられて来た。余りにも大袈裟に泣き叫ぶので、サイコレンジャーが悪いことをしてるみたいだ。


「しかし、今日は完勝だったな。良いチームワークだったし、全員の勝利だ」

「誰かは逃げ出しそうだったけどね」


 ブルーが満足そうにそう言うと、ブラックは怖い顔して睨む。


「ありがとうございました。これはせめてものお礼です。みなさんで召し上がってください」


 フライドチキン店の店長さんが、商品を詰め合わせた箱を差し出す。


「いえ、当然のことをしただけですから、これは受け取れません」

「いえ、そう言わずに、気持ちですから」


 店長がどうしてもと商品を差し出すので、結局レッドは有難く受け取った。


「今度のあみだくじは負けないよ」


 ブラックがブルーに耳打ちする。


 ブルーは帰ってから、また熱い戦いが始まりそうだと思った。



「あー良いな、あいつら。フライドチキンを貰って」


 アジト内のトレーニングルームで、白いトレーニングウエアのホワイト将軍が、エアロバイクを漕ぎながら呟く。


「何か見えたのですか?」


 横でシルバーグレイのトレーニングウェアでエアロバイクを漕ぐ死神執事が将軍に訊ねる。


「チキンチキンがサイコレンジャーにやられたよ」

「千里眼でご覧になったんですね。残念です。貴重な怪人がまた一人掴まったのか……」

「いや、あいつはうるさかったから、掴まってくれて助かったよ。それより奴らお礼にフライドチキンを貰いやがってさ。ホント腹立つ」


 ホワイト将軍は悔しそうに、バイクを漕ぐ速度を速めた。


「ええっ……怒るのそっちなんですか? だいたい将軍はダイエットの為に、今トレーニングしているんじゃないですか。フライドチキンは太りますよ」

「うるさい! 最近ここでずっと待機しているだけだからよ。もう私が出て行って、サイコレンジャー達を始末する?」


 ホワイト将軍はイライラしながら、不満を漏らす。


「今はまだ我慢してください。万が一負けでもしたら『奴は四天王の中でも最弱』と言われるタイミングですから。他の幹部連中の出方を窺ってからです」


 死神執事は冷静に将軍を諭す。


「分かったよ。死神がそう言うのなら我慢する」

「ありがとうございます」


 ホワイト将軍はストレスを発散させるかのように、一層激しくエアロバイクを漕いだ。

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