第2話 熱唱! カラオケ対決(2)

 屋上から「サイコレンジャー5」と大きく書かれたヘリコプターに乗って怪人の出没現場に向かう。


「あれ? なんかぶら下がってる」


 ブルーはヘリコプターに何かぶら下がっているのに気付いた。それは「サイコレンジャー5の広告スポンサー募集中」と書かれた垂れ幕だった。


(戦隊ヒーローとは?)


 ブルーの頭に哲学的な疑問が沸き上がった。


「ねえ、今のうちに第六感で、今回の戦闘に有利なこと教えてよ。それしか役に立たないんだから」


(最後の一言が余計なんだよ、ブラックは)


 ブルーは目を閉じ、閃け閃けと念じた。


「時間稼ぎをしろ」

「ええっ、時間稼ぎ?」


 四人は同時に声を上げる。


「どういう意味なんだ?」

「いや、閃いただけだから、俺もよく分かんない」


 レッドの質問にも、ブルーはそう答えるしかなかった。


「まあ、みんな、ブルーの勘はよく当たるんですから、時間稼ぎしてみましょうよ」


 ピンクがそう言ってみんなを宥めた。



 今回の現場は閑静な住宅街にある駐車場。怪人や戦闘員たちが大音量でカラオケ大会を開き、住民が迷惑して通報してきたのだ。


(うーん、これって、ブラック企業よりひんしゅくモノだと思うけど、ワルダ―的にはどうなんだろう?)


 現場に到着し、バリバリバリと大きな音とプロペラの回転で起こる風で大量の砂塵を巻き上げ、ヘリコプターはブルー達を降ろして去って行く。


(カラオケと比べて、俺達も十分迷惑者だよな……)


 ブルーはヘリコプターを見送りながらそう思った。


「出たなカラオケコンドル! お前の好きにはさせんぞ!」


 コンドルの頭と羽を持ち、体はスピーカーの怪人の前に、レッドが立ちはだかる。


(相変わらずレッドの頭には、初見でも怪人のデーターが入ってるみたい。図鑑でも持ってんのか?)


「何を! ここがお前らの墓場だ! やれ、戦闘員のみなさん!」


(怪人もパワハラと言われないように気を遣ってんだ)


 戦闘員がブルー達に向かって……いや、違う。全員ブルーに向かって突っ込んで来た。


「安牌と思われてる! 奴ら俺が安牌だと思ってるよ!」


(なんで月給十五万の俺が、二十万の奴らを何人も相手にしなきゃならんのだ? 理不尽にも程がある! クッソ腹立つ! 許さんぞお前ら!)


 ブルーは襲い掛かって来る奴らを手あたり次第やっつけた。戦闘スーツは攻防両方にパワー増幅機能が有り、戦闘員程度ならブルーでも相手に出来るのだ。


「へえー、たまにはブルーも仕事するじゃん」


 手持ちぶさたなブラック達は、地べたに座り込んでブルーが戦う様子を眺めている。


「よくもやってくれたな。今度はこちらから行くぞ! 大音量スタート!」


 カラオケコンドルは自分の体にマイクをつなぎ、カラオケをスタートさせる。流れてくるメロディーは……、


「あっ、これは俺の大好きなサイモンアンドガーファンクルの『コンドルは飛んで行く』だ! ナイスチョイスだぜカラオケコンドル!」


 ブルーは感心したように叫ぶ。


「うっ! 音量より、下手くそな歌の方が苦しいぞ!」

「何をどう歌ったらこんなに酷くなるんだ!」

「これは名曲に対する冒涜ですわ!」


 カラオケコンドルが歌い出すとメンバー達が苦しみ悶える。


「なかなか上手いじゃないか」

「お前の耳は腐ってんのかよ!」


 ブルーが褒めるとブラックがまた暴言を吐く。


「次は俺に歌わせろ。カラオケで勝負だ!」

「分かった望むところだ」

「ブルー! これ以上被害を増やしてどうするんだ!」


 レッドの制止も聞かず、ブルーはカラオケコンドルにカラオケ勝負を持ちかけた。結局ブルーも歌いたかったのだ。


(よし、これで俺の第六感の通り時間稼ぎが出来る)


 サイモンアンドガーファンクルにはサイモンアンドガーファンクルで勝負。ブルーが選んだ曲は「冬の散歩道」だ。


「うわー、怪人より下手じゃないか!」


 レッドが失礼なことをのたまう。だが、ブルーは気にせず歌い続けた。


「なかなかやりおるわ。さすが、俺にカラオケ勝負を挑むだけはある」

「どんな耳してんのよ! お前らは!」


 ブラックが這いつくばりながら、泣きそうな声で叫ぶ。


 その後もブルーとコンドルは交互に歌い続けた。


「なぜ俺達は闘いに来て、下手くそなサイモンアンドガーファンクルメドレーを聴かされてるんだ」


 もう倒れて起き上がれないイエローが泣き言を言う。


「こんな精神攻撃初めてですわ。とても二人の心を覗く気になれない……」


 ピンクも息も絶え絶えに這いつくばっている。


 ブルーが「サウンドオブサイレンス」で勝負を決めようとすると、コンドルの体から軽やかなチャイムの音が鳴る。


「ちっ、残念だが定時になってしまった」

「何でだよ、このまま続けようぜ」

「馬鹿やろう! ブラック企業と呼ばれるだろ!」


(あっ、やっぱり気にするんだ)


「仕方ない。次は決着をつけようぜ」


 ブルーはそう言って右手を差し出す。


「望むところだ」

「俺達は望んで無いけどな!」


 レッドの罵倒を尻目に、二人は好敵手に出会った満足感の笑みを浮かべ、握手を交わす。コンドルはブルーに敬礼しながら去って行った。


 敵が去った後、ブルーはメンバー達を介抱する。


「今日は俺の活躍で解決出来たな」

「お前のお陰で余計に被害が大きくなったわ!」


 ブルーは四人に同時に怒られた。


 その後もメンバーたちに散々非難されたが、ブルーはそれでも良かった。今日の活躍を知った、カラオケメーカーからCM出演の依頼が来ると思っていたから。



「ホワイト将軍やりました!」


 死神執事はホワイトの執務室に入るなり、嬉しそうに報告する。


「何をやったと言うの?」


 ホワイト将軍はヨガに勤しみながら訊ねる。


「呑気にヨガをやっている場合じゃありません。カラオケコンドルが住民に大迷惑を掛けて、ワルダ―ポイントを100も集めたんですよ」

「ワルダ―ポイント? 何それ?」

「全くあなたってお人は……」


 死神執事はため息を吐く。


「ワルダ―ポイントを一万以上貯めた幹部は、総統閣下に謁見して表彰されるのです。もちろん昇進のチャンスとなります」

「そうなのか。まあその辺はお前に任せるよ。私が今の地位にあるのもお前のお陰だからな」


 ホワイト将軍の言葉に偽りはない。実際に将軍の配下をまとめているのは死神執事だった。だが、死神執事に不満は全く無い。あの日以来、この無邪気で美しい人を守ろうと心に誓ったからだ。


「光栄です。私にお任せ頂ければきっと将軍を日本支部の総責任者にして差し上げます」

「ありがとう。私にはお前だけが頼りだからな」


 そう言って、ホワイト将軍は死神執事にハグをする。それだけで死神執事は幸福感に包まれた。

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