第2話 熱唱! カラオケ対決(1)

 サイコレンジャーのメンバーは、平日月曜から金曜の午前九時から午後五時まで、六階のフロアで待機することが、原則義務付けられている。待機中はフロア以外の移動は禁じられているが、午前と午後に一時間ずつある筋トレと武道の練習以外は何をしていても良かった。


 残業は無く、完全週休二日制で祝祭日も休み。月給は手取りで十五万と微妙だが、それ程出撃回数が多い訳じゃなく、元々フリーターだったブルーは不満を感じていなかった。


 金曜の午後三時。午後の筋トレも終わり、メンバーは楕円形の大テーブルに配置された、それぞれの席で時間を潰している。


 レッドはパソコンで株取引。ピンクはミシンを持ち込み、趣味の手芸をしている。イエローだけはトレーニングルームで筋トレを続けていた。ブラックはタブレットで動画を観ているようだ。


 ブルーと言えば、スマホでソシャゲ。ヒーローに憧れる子供たちが知ったらガッカリする程のんびりしている。


「なあ、レッド。俺達平日の九時から五時まではここで待機してるけど、それ以外の時間は良いのか? 怪人が暴れたらどうするんだ?」


 ブルーは左に座るレッドに気になっていたことを問い掛けた。


 レッドは楕円形のテーブルの頂点、お誕生日席に座っている。テーブルの面積が少なくて使いにくいだろうとみんなに言われているが、リーダーだからと頑なに移動しようとしない。


「ええっ?」


 レッドは意外なことを聞かれたというように、驚いた反応を見せる。


「いや、だってさ、怪人が土日に出没することも有るかもしれないだろ?」

「いや、君は何を言ってるんだ? 土日に出没する訳が無いだろ」


 レッドが余りにも当然と言わんばかりの言い方なので、ブルーは自分の方が変なこと言ってるのかと自信が無くなってきた。


「土日に出没すると、怪人のみなさんは休日出勤になりますわ」


 二人の会話を聞いていたのか、ピンクが物分かりの悪い子供に言い聞かせるように割り込んで来る。


「休日出勤って……悪の秘密結社に休日なんて観念があるの?」

「ええっ!」


 二人は心底驚いた声を上げた。


「ブルーはホント馬鹿ね。今時休日出勤なんかさせたら、ブラック企業の汚名を着せられるじゃないの」


 ブラックがブラック企業の悪口を言いながら、会話に入って来た。


(ブラック企業の汚名って、悪の秘密結社以上に汚名なのか?)


 ブルーは唖然として言葉が出ない。


「あの秘密結社は残業させられるとか、戦闘員の扱いが酷いとか、ネットで悪い評判が立ったら、採用募集に誰も応募して来ないだろ」

「ええっ? 悪の秘密結社って戦闘員募集してるの?」


 ブルーはレッドの言葉に驚いた。


「ほら、ネットにいつでも載ってるじゃない」


 ブラックがタブレットで検索した戦闘員募集のページをブルーに見せる。


「うわっ、ホントだ! ってか月給手取り二十万保証って、俺達より良いじゃないか! 戦闘員のくせに! なになに、マメ知識もあるぞ。『サイコレンジャーブルーは弱くて安牌! 攻めるならブルーだ!』って馬鹿にしやがって」

「でも事実じゃん」


 ブラックが当然のように言い放つ。確かに事実なので、ブルーは言い返せない。


「まあ、私達はヒーローだからね。いろいろプロモーションの声が掛かるだろ? 半分は機構の取り分になるが、副収入としては十分だ。現に私はもう二本もCMに出ているし。まあリーダーだからかも知れんがね」


 レッドが誇らしげに言う。


「私もこの前グラビアに出たよ。仮面付けてても私のナイスバディは需要があるみたいでさ」


 ブラックがグラビアに載ったポーズを決める。


「俺もこの前トレーニングジムの広告に出たぞ」


 ちょうど帰って来たイエローまで自慢しだす。


「ええっ? イエローまで!」

「みなさんはしたないですよ。ヒーロー戦隊はお金儲けの道具じゃありません。あくまでも正義の為。奉仕の精神が必要ですわ」

「そんなこと言わないで、ピンクも私とグラビア撮ろうよ。この前セットの仕事もあったのに流れちゃったじゃない」

「私は人前で肌を晒すようなことは致しません」

「勿体ないな。こんな良い体してるのに」

「いやー、透視するのやめて!」


(ブラックに念写してって頼んだら怒られるんだろうな……)


「ブルーも何か話は来ているんだろ?」


 イエローが容赦ない質問をブルーに投げ掛ける。


(ちょ、この話の流れで、どうして俺に依頼が来ていると思えるんだろうか? 鈍感にも程があるぞイエロー)


「ちょっと、イエロー。そんな質問残酷じゃない。ブルーはプロモーションのこと知らなかったんだし」


 ブラックがニヤニヤ笑いながらそう言う。


(クッ、イエローは天然だがブラックは絶対に確信犯だろ。俺に嫌味を言ってやがるんだ)


「まあ、そのうちブルーにも何かお声が掛かるわよ」


 ピンクがブルーに優しい言葉を掛ける。


「でも、ちょっと勘が良い以外はなんの取柄も無いからねえ」


(ホント、こいつは心までブラックだな!)


「今に見てろ! 大活躍して、お前らより稼いでやるからな。子供たちもブルー、ブルーって大騒ぎして、フィギュアも発売されるからな!」

「はいはい、決まってから言ってね」


 ブラックが呆れ顔で返事をした時、天井のパトランプが回りだして警報ブザーが響く。


「みんな出撃だ! サイコチェンジ!」

「あっ、はい、サイコチェンジ……」


 レッドは掛け声と共にリングのボタンを押して変身するが、他のメンバーは消極的な掛け声と共に変身した。みんな言葉にはしないが、毎回照れくさくて声が小さくなってしまう。

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