第3話




「起きろー、朝だぞー、学校だぞー、二度寝は終わりだぞー」


「……んん……やぁだ」


「幼児退行したクソガキが、さっさと起きろ。寝坊して遅刻しても知らんぞ。今日は1発目に行かないといけないだろ」


「んー、分かったぁ…」


「…その手はなんだ」


「起こしてー」


「てめぇ……やっぱ先日の一緒にお風呂入って以降、変わったよな?」


「そりゃー、初めて素面でお風呂入ったから気持ちがまた変わったっていうか……なんでもいいやーってなってる」


「最悪だ…入らなきゃ良かった。俺の苦労が増えるじゃねぇか」


「あははー、それより早く」


「…今度外出した時に奢れよ」


「ん」


「よし、契約成立。ほらよ」


「ありがとっ達也」


「おう」








「…お昼ご飯用のお金もろとも財布を忘れました!助けて達也…」


「はぁ?……仕方ねぇな。何か買ってやるよ」


「ほんと?」


「あぁ」


「ありがとー!達也」


「…想定外の出費だ」










「…これだけでいいよ?」


「少なくないのか」


「これだけで大丈夫」


「…どうせ遠慮してんだろ。俺の金銭面的な事で」


「……」


「遠慮するな。これだけだったら絶対に足りないって事は俺も知ってるし何よりお前自身が一番知ってるだろ。こんなんで出る出費なんてたかが知れてるからな、俺の金が減ってお前が腹を満たされるのなら俺はそれを選ぶ」


「……いいの?」


「あぁ」


「…やっぱ達也も変わったよ。…ありがとう、本当に」


「良い笑顔だな。やっぱり、お前には笑顔が良く似合ってる」


「口説いてる?」


「口説いて欲しいか?」


「んーー……ちょっと?」


「はっ、なんだそれ。やっぱあれのせいで俺たちの中の何か変わったんじゃねぇのか?」


「かもねー。…じゃっ、遠慮なく選ぶね」


「おう」


「これと…これと、あっ、これかな?あとはー、家に帰ってから食べるおやつに…飲み物に」


「おいおいおいおい」


「はい、これかな?ありがとね!達也」


「……予想外の出費過ぎた。…まぁ、でも…腹空かせて悲しそうにしてるお前を見るよりは断然マシか」





◆◆◆





「ただいま」


「お帰りー」


「バイトも大変だわ…」


「休日に入れない代わりに平日多いからね〜。と言っても、そんなに回数は多くないけど」


「バイト代が俺とお前の二人で…親からも定期的に生活資金が送られてくるから余裕があるからそんなにバイトは入らなくていいんだよな」


「だね。そのお陰で土日とか祝日はゆっくり出来るんだよねー」


「それはそう。じゃあ、飯作ってくる」


「…ごめんね」


「ん?」


「私が料理出来たら達也をこれ以上疲れさせなくてすむのに…」


「もう慣れてる。そんな悲しそうな顔するなっての…」


「ん……じゃあ、今はこの感情は無くしてスマホゲーするね」


「おいゴミ」


「なに?」


「…塩分過多な料理出してやるからな」


「本当に死んじゃうからやめて!?」


「少しは手伝ってくれたら嬉しい」


「分かった」







「それをそっちに移した後に塩を…その醤油をスプーンの半分くらいまで入れてこれに入れてくれ」


「は、はい。む、難しい…」


「…これで難しいは幸先不安だが、とっても楽だ」


「そう、なら私の存在意義が証明されたね」


「そこまでか?…あと、つまみ食いすんなよ」


「…もち」


「間があったな?」


「してないからセーフ!」


「そらそうだろ。してないのにアウトは誤審すぎるだろ」


「だね。にしてもー、こんな所を誰かに見られたら絶対にめんどくさいことになるねー」


「…特に母さん達にはバレたくないな」


「…うん。絶対に揶揄ってくる」


「俺の母さんとお前の母さん、仲が良いから結託していろいろ言ってくるぞ」


「簡単に想像が出来る。新婚って言われそう」


「だな」


「言われるくらいなら結婚するー?」


「結婚?俺は別に構わんが、その結婚に愛はないぞ?」


「どこかのCMかな?」


「そこに愛はあるんかー?ってか?…仮に結婚したとして何も変わらんし、愛があるわけじゃないしな…その辺りはあまり調べてないから戸籍とか指輪とか、めんどくさいんじゃねえの?」


「それもそっか…私は別にあんたとなら結婚しても構わないわよ?」


「なんだ、愛でも伝えてるのか?」


「そんなんじゃないわよ。ただ…マジな話すると独身のままだと絶対にお母さんが何か言ってくるのよ。早く結婚しろ、しろーって…じゃあ仕方なく結婚してあげますかー、ってなったとしても私はその対象をあんたにすると思うのよね」


「なるほどなー…って、俺も同じことになったらお前と同じ判断をしてお前を選ぶだろうな」


「でしょ?早かれ遅かれ結婚するくらいなら…早めに結婚しといた方がいいんじゃないの?ってこと」


「ならまずは、この関係を終わらせて一歩前進しないといけねぇぞ」


「そっか…そうなるのかー。それは一つミスったら二度と元に戻らなさそうだね」


「それは怖いな」


「うん」


「…まっ、俺は今お前に対して…緋奈に対して恋愛感情とかは抱いていないが、それを抱けるようになったら前進するわ」


「そうね、私もそうするわ。達也に対して恋愛感情を抱き始めたら…そうね、夜這いでもしてあげようかしら」


「いきなりおかしいだろ!?お前がそれくらいで行くなら俺は恋愛感情抱き始めた瞬間お前を襲うぞ」


「それもいいんじゃない?わたしたちの関係はまず間違いなく進展するわよ」


「抵抗しろよ」


「抵抗ね…抵抗してもあんたの軟弱な頭ならともかく力じゃ勝てないわよ」


「しれっとディスったな」


「なら、抵抗せずに大人しくあんたに体を預けるわよ」


「なんちゅう事言いやがる…」


「これが私の覚悟よ?ムードを作って私を誘うのもありだし、無理矢理押し倒すのもありだし…あ、でも外はホテル以外はダメよ?犯罪だから」


「するか、アホ。まだ恋愛感情のれ、があるら行すら無いからな」


「そう。まっ、私もなんだけどね…」


「にしても、なんでそんな事を?」


「…今日の講義中にね、お母さんから達也とはどうなの?って連絡が来たのよ」


「講義中…」


「普通って返したけど、その後にね………なんだったかしら?」


「俺に聞くな!!」









「えーと…あんたまだ彼氏居ないんでしょ?なら達也君とかどう?だって」


「…」


「そんな事が講義中に送られてきたので無視したよ」


「おぉい!無視したんかい!」


「そらするでしょ。講義中よ?」


「真面目君」


「ちゃんにして」


「真面目ちゃん」


「よし。…じゃなくて、なーんか頭に残っちゃってね」


「で、あんな会話ってことか」

 

「そゆこと」


「結婚か……お前とか」


「母曰く」


「曰くって…」


「そもそも結婚の前に付き合わないといけないわね」


「あー、そうだったな。色々すっ飛ばしたな……でも、マジな話お前と結婚した時に絶対にキスはするだろ?」


「そうねー。…練習でもする?」


「キスのか?あほか、カス」


「キスカス?…じゃなくて、ファーストキスは既にあんたに奪われてるからね?」


「俺もだ」


「あれって…確か中2だっけ?」


「あー、その辺りだったな。確か……なんでキスしたのか覚えてねぇ…覚えてねぇが

くっそくだらなかった気がする」


「私も覚えてないわね。…でも、軽いキスをした記憶はあるのよねー」


「それな。ちょっと触れ合っただけの奴だけど…めっちゃ恥ずかしいってなった」


「今でも覚えてるから相当なものだったのね。今してみる?」


「…飯食ったあとだぞ?」


「…うん、嫌な予感しかしないからやめよ」


「それ以前にキスをしたら…した時点で関係終わるだろ」


「あ」


「当分今みたいな関係が良いからな。俺はな?」


「私もよ。ふざけて結婚だのキスだの言ってたけど今の関係が一番なのよね。近すぎず遠すぎず」


「本当にそう」


「……この関係もいつかは終わるのかな?」


「さぁな。それこそ、俺たち次第だろ」


「そっか」


「一旦この話は終わりにして……で、なにする?」


「んーー……そうだね。これなんてどう?達也の腹筋を割れさせるって話」


「もっとマシな話ないのか!?」


「えー、思いついたのがこれだよ」


「どうせ風呂だろ」


「そだよ。お風呂で達也の腹筋割れてないな〜って思ったのを思い出したから。割れたら…触らせて?」


「しないっての!!俺はそこまで筋肉の事を考えてねぇっての!」


「ケチ」


「はぁ!?ぶちこ……コホン、ぶちぶちにすんぞ」


「よろしい、その喧嘩買いましょう」


「望むところだ」





---オマケ



「やー、お風呂ポカポカ。温まったわー」


「っおい緋奈…」


「?どしたの」


「髪の毛乾かせ」


「あー、忘れてた…髪の毛乾かす労力がもう嫌。あーあ、どこかに乾かしてくれる人は居ないかなぁ」


「俺を見るな」 


「…ダメ?またお願い、乾かして」


「仕方ねぇな…そこ座ってろ」


「わーい」






「あわわわぁぁ」


「ヨッシーさん?」


「だって達也のこれめっちゃ楽で気持ちいいもん」


「…そういう職業でもなろっか?あと、背を預けるな。濡れるだろ」


「濡れるのは知らなーい。そういう職業って今からは無理でしょ。あっ、私専属ならいいわよ。お金払わないけど」


「断る。金も出ねぇ仕事に就くつもりはないからな」


「ざーんねん」


「たまにこうしてやるから、それで我慢しやがれ」


「へいへーい」


「分かっているのかどうか……ん?お前、薄着なのはいいけどゆったりし過ぎじゃねぇか?」


「別にいいじゃん」


「いや…普通に胸見えそうだから」


「…あー、変態さん?」


「お前のあってない胸を見たところでな…」


「訴えるぞ」


「やめろや。…で、もう少しゆったりとしてない薄着とかないのか?」


「あるけど、1着しかないわよ」


「…俺としては困るんだが。見えそうで」


「サービスだと思えばいいんじゃない?とてつもなくレアよ?21歳の胸を見れるなんて」


「そこに腐れ縁って単語が付いてなければない」


「私の胸は不満なの?」


「イエス」


「ぶち殺すわよ」


「体勢的に俺が有利だぞ」


「確かに無理矢理押し倒したりするのには達也の方が有利ね」


「誰もそんなこと言ってねぇよ」


「冗談よ」


「……生乾きで明日を迎えるんだな」


「え、ちょっ!?それだけはやめて!!」


「自業自得」


「お願いだから!!」


「暴れるなっての」


「ねぇー!お願い」


「自分でやればいいだろ」


「自分でやるのは無理!達也のがいい」


「我儘クソやろうが……今日の昼飯代わりの奢りとはまた別の奢りな」


「うん、わかった!」


「…それでいいのかよ」




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