風の吹く
しら玉白二
第1話
時計を見ると11時半。
リモコンに手を伸ばしてテレビをつける。お昼のニュースが流れていた
今日は祝日。ともえは正月が明けて2、3日しか会社に出てないのに、眠かった。
近所の学校はまだ休み。冬休みの昼は、この時間位からケチャップの匂いがしてくる。
お腹減った。入社を機に一人暮らしをしてもうすぐ1年だが、ついつい実家に帰ってしまう。
去年の夏の終わりも疲れていた。
会社勤めと一人暮らしで、彼とはなかなか会えないし、8月は暑くて暑くて本当に疲れて、やることに追われて帰る時間になるし、キレても何も解決しないんだけど、なんか出したくて。
大人げないから我慢すると、気持ちがじわーっとこみ上げてくる。デスクの前で私はこんなだった。
私の母は、決して慰めてなんてくれないんだけど、父も多分競馬に行っていないと思うし、お兄ちゃんも週末は彼女と居て絶対いないから。
私は風がよく入る部屋に帰りたいと思った。行きたいと気持ちが急いだ。
「ただいまー」
実家に入ると洗濯室から母が出てきた。
「いらっしゃい、手洗ってうがいして」
外から戻ると小さい頃から変わらない母の文句。
2階の部屋に上がり、窓を開けると山から吹き降ろす風が入ってきた。
「ちょっとー早く手洗ってうがいしてよ、そしたら水分取るのよ」
下から母が、怒鳴ってくる。
降りて手を洗いうがいを済ませた。
冷凍庫に母のミートソースが小分けにして入ってる。
温めて食べよう。帰りにまた持って帰ろう。
食べ終わった頃、洗濯物を干した母が裏庭から戻ってきた。
「食べたの?麦茶は?いる?」
空になってるコップを見て母が聞いてくる。
食べた、と皿を母に差し出す。
「やだ自分で片付けて」
嫌そうな顔で母が拒否する。
「水につけてね」
家の中が急にムシてきた。
「雨くるんじゃない?」 私が言う。
「これだけ風ついてるとくるかなぁ」
母が洗濯物と空を眺めている。
「あっ、ふってきた、ふってきた」
急いで取り込むのを手伝った。外は本当に息苦しく、体育のマットレスに包まれた位、重い湿度で身動きが取れない。
ザーっと大きい雨音が窓を叩いた。白く煙ってるみたい。
10分も過ぎると雨は止み、外からカーテンを、ふわぁふわぁと風が押してくる。
「夜いらないから」私が言う。
「何?なんて?」パチパチとせんたくばさみから外す音に混じって母が聞いてくる。
実家に着いてから、どうなの最近と声もかけてくれない。何時頃帰るのとも言われない。やっぱりそこは楽なところだ。
泊まっていくのとは絶対言ってくれない。
つけておいた皿を洗う。フォークの間に付いたチーズが取れない。洗い残しされるのが嫌な母、気をつけて洗っていく。
部屋に上がる。窓を閉め忘れていた。
雨が入り込んで、窓の下のカーペットは濡れてしまっている。
やばい。
思いながらも外を見る。西日があたり始め、山の真ん中に日が差している。
左に影が伸びている。もくもくした濃い緑、ムンとした匂い立つ様。
その下で、ポプラの木が揺れている。右にゆれ、左にゆれ、葉の真ん中を風が割って、枝葉が分かれる。今度は手前に全部倒れてくる。
山からの風が部屋に入り込んでくる。
ベッドから出て、目の前の公園を眺める。
お昼を食べに子供たちは家に帰ったのかな、遊んでいる子はいなかった。
たくさんのソリと足跡がついた雪山が、可愛いなぁ。やっぱり行こう実家。いいよね。
ミートソースミートソース♪
風の吹く しら玉白二 @pinkakapappo
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