第11話 貧乏冒険者と奴隷
薄暗い裏路地を進んでいく僕とおじさん。僕は『腕がねぇって知られたらスリや強盗に狙われるから』とおじさんに厚手のローブを被せられていた。
「でも、僕……奴隷だなんて買っても養えないよ」
「うるせぇ、お前の腕になるんだから死ぬ気で養え。日常生活でもダンジョン攻略でも腕は必須だろうが」
小声で会話をする僕とおじさん。入り組んでいる裏路地を右へ左へと曲がって、どんどんと裏路地の奥の方へと進んでいく。
おじさんはそのまま僕の方を見ずに周りを警戒しつつ会話を続けた。
「日常生活に腕が無いと何かと不便だろうし、ダンジョン攻略だとなおさら腕のない冒険者なんて敬遠されるだろ。パーティーを組むってのはお互いがお互いを守るためだ、物理的に腕のないお荷物は組めるわけもねえ」
「それは……そうだけど」
「坊主が現実を見れない夢狂いってのは分かったが、それでも坊主が生きているのは紛れもなく『現実』だ。夢じゃねえ、だからこそ奴隷ってのは俺が提示できる最良の手段だ」
おら、ここだ。そう言っておじさんは地下に伸びる階段を指さす、ここが……奴隷商。奴隷はオルルコの街で何度か見たことはあったけど、どこで売ってるのか知らなかった。
階段を
「ようこそぉ、奴隷商へ。おやポピンズ様、新しく弟子をお取りに来ましたかぁ?」
「俺はまだ弟子を取れるほど鍛冶の道を究めてないんでな。今日の客は俺じゃなくてこいつだ」
「ほぉう……両腕が無い冒険者崩れですかぁ……」
モノクルを掛けた肥えた男が、そこにはいた。両手の指全てに宝石のついた指輪がされており、赤いソファーにゆったりと座っているその男は僕を
「君は初めてのお客さんですねぇ。自己紹介をいたしましょう、
「はっ、どの口が『しがない』とか言いやがる。お前ほど稼いでる商人はオルルコにはいねえぞ」
「ポピンズさんも中々に稼いでいると小耳に挟みますがぁ?」
「……けっ」
軽口をたたきあっているおじさんと目の前の太った男……ハーロック?さん。さっきは苦虫を100匹ぐらい噛み潰しているような顔をしているおじさんを見ている僕としては、ちょっと意外だ。
「今のあなたならそうですねぇ……42万ギルほどの価値があると思いますよぉ?」
「前回来た時より2万ギル上がってるな。ったく、そうやってすぐ人の価値を金銭で考えるのは悪い癖だぞハーロック」
「すみませんねぇ、商売
訂正、納得した。このハーロックという人、かなりの変人だ……僕がそう思っているとグリンっと顔を僕の方に向ける。
そして顎をさすりながら、ふーむ……と何度か首をかしげるといきなり僕を指さした。
「0ギル」
「え?」
「君の価値ですよぉ。0ギル、それが私の評価ですぅ」
んふふふふ、とおどける様に笑うハーロックさんに僕は唖然とする。いきなり何を、と思ったところでハーロックさんはシッシッと手を払った。
「私は私のお眼鏡に適った人に、その人と同価値の奴隷を紹介させていただいてますぅ。あなたに紹介できる奴隷はおりませんのでぇ」
「そんな……ッ」
「……奴隷とはいえ人間を扱っている以上、ふさわしいご主人様を私が選定しなければ、その奴隷の人生は悲劇的なものになるのですよ。わかりましたか?
モノクルを外して僕をにらむハーロックさんの目は……本気だった。僕が無価値であるという判断を下したハーロックさんは先ほどまでの間延びした語尾を消してハッキリと僕に現実をたたきつける。
その言葉に何も言い返せないでいると、おじさんがハーロックさんに話しかけた。
「ハーロック、こいつには腕が必要なんだ」
「おや?ポピンズさぁん、ずいぶんと肩入れしますねぇ」
「……夢に狂ったやつは、自分がどんな状況であっても夢を追いかけるんだよ」
「なら尚更、奴隷は売れませんよぉ?死地に飛び込む
「42万ギルの紹介で来た客でも、か?」
「…………」
おじさんの言葉に考え込むハーロックさん。そして――
「はぁ、ポピンズさぁん。ずるい言い方ですねぇ、あなたが面倒見てくださいよぉ?」
「……善処はするよ」
「善処じゃなくて、絶対ですよぉ。0ギル、あなたには不釣り合いな『腕』を用意してあげますぅ。さっさと自分の価値を『腕』と同じぐらいには上げていただけると私も嬉しいのでぇ」
そう僕に言って、後ろに立っていた使用人に『253番を用意しろ』と指示を出したハーロックさんは深いため息をつく。
「私が今所有している奴隷の中で、『もっとも安い』奴隷を用意させていただきましたぁ。それでも3500ギル……あなたとは天と地ほども差があることを覚えておいてくださぁい」
「ありがとう……ございます?」
「連れてきました、253番です」
使用人が鎖を持って裏から出てくる。その鎖の先には……1人の女の子が繋がれいた。
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