第8話 貧乏冒険者と初勝利
自身の巨体を使ってのタックル、鋭い爪を使っての引き裂き、牙を使っての噛みつき。
そのすべてをかわしては、僕はチクチクとナイフで刺していく。
次にどんな攻撃が来るか?次にどんな動きをするか?考え続けるんだリド!なんの才能も無い僕が出来るのは、これだけなんだから!
極限状態である僕がここまで動けるのは両足が無事なお陰。滑り込む、
「ガウッ!」
「よっ……と、大分、爪でのひっかきが多くなってきたね」
上から降ってきた
あっぶな……気を引き締めろ、躱し続けているといっても君は弱いんだぞリド!オオカミの前脚を
さっきからチクチクと傷をつけられ、それでいて自分の攻撃は当たらない……まるで夏場の蚊の様な
確実にイラついている、それを感知した僕は勝負に出る。
「うわっ……!」
「ッ!グルゥ!」
自分が右腕を食われたときに出来た血だまりに足を取られる振りをする、オオカミは僕が倒れて隙を見せたと勘違いして思いっきり飛びかかった!
それを確認した瞬間、僕は崩れかけていた体勢を直し後ろに下がる。そして飛びかかったオオカミは両方の前足を僕が作った血だまりの中に着地させる……
――ズルッ……
「キャイン!?」
血だまりに足を突っ込んで滑らせたオオカミが身体ごと前につんのめる!ここだ、ここが絶好のチャンス。僕は足元に滑ってきたオオカミの鼻っ面に思いっきりナイフをぶっ刺した!
「ギャウッ!」
「っく、浅い!」
刺さらないわけじゃなかったけど、流石第5層のモンスター、硬い!左手一本じゃ深いところまで刺さり切らない!
痛みに耐えながらなんとか体勢を整えようと立ち上がろうとするオオカミに焦る僕、どうしよう……どうすればいい!?
「片手で刺さらなければ……柄ごと蹴りこんでやるッ!」
「グウゥ……!」
僕が必死になって作った、最初で最後のチャンス。腕はまだもう一本あるんだ、このチャンス掴んで……離してやるもんかっ!
オオカミの鼻っ面に浅く刺さったナイフを見て、僕は思いっきりジャンプする。そしてそのまま柄に向かって着地する!
「ガアァ!?」
「だっ……めだ!体重が軽すぎてやりきれないっ」
くそっ、ここにきて僕が普段から満足に飯を食べれていない
しがみついたけど、左手しかなくて握力が足りずにすぐに剝がされてしまった。掴んだチャンスが……終わる。
最後のチャンスが、消える――
「いや、まだだ!」
僕は立ち上がって再び跳ねる、踏みつけて足りないなら勢いで……ッ!横にあったオオカミが壁に付けた傷跡に、足のつま先を突っ込んでひっかける。
普通に跳んださっきよりも高くその身を跳ばせた僕は、着地を気にせず足を上に振り上げた!
頭を振っているオオカミに刺さって動いているナイフの柄を狙うなんて、とんでもなく難しいけど……やりきらないと僕が掴んだチャンスは今度こそ終わりなんだ!
ナイフの柄を狙った
「っだあああああああああああああああああああ!!!」
「グルゥッ!?」
目を
初めて会った時とは逆の構図、僕が右腕を失くしたように今度はオオカミが決定的な隙が出来る!これなら、狙えるッ!
思いっきり振り上げた右足を、振り下ろす。そして鼻っ面に伸びている柄に叩き込む!!
ずぶっと深く刺さった感触が足越しに伝わる。オオカミはビクビクッと数度
あまりの痛さに気絶したのか、それとも死んだのか……今はわかんないけど、勝った、のかな?
「勝った、勝った……ッ!」
初めての冒険に心がざわついているのを感じる。充実感をかみしめる様に左手で強く拳を握った。
強い敵に命を賭けて戦って勝つ、これが……『冒険』。スライムを相手には絶対に感じることのなかった心のざわめきに僕は
「ははっ……こんなの知っちゃったら、戻れないじゃないか」
ひりひりした命の攻防、一回でも判断を間違えば崩壊する綱渡りな戦況の組み立て、そして最後の全てを賭けた一撃。
右腕を失っているという最悪な状況からのジャイアントキリングに、僕は全身を震わせた。
あ、そうだ……ナイフを回収しないと。深く刺さったナイフ、左手で抜けるかな?そんなことを考えながら倒れたオオカミの近くに寄る。これが、僕の最大の油断だった――
「……ガウッ!」
「ッ、生きて!?」
気絶していたと思っていたオオカミは、閉じていた目をカッと開いたかと思うとナイフを抜こうと伸ばしていた僕の左腕に思いっきり噛みついた!
こいつッ、僕が近づくのを足音と匂いで……!
絶対に逃さないとばかりに血走った目で左腕に牙を立てるオオカミ、そんな状況を前に僕は……驚くほどに冷静だった。
思いっきり身体を捻りながら跳び、目の前にあったオオカミの目を蹴り潰す。オオカミはあまりの痛みに暴れて僕を持ち上げる様に顔を上に向けた。
だが僕の身体は、地面にあった。しっかりと地面に両足で立ち、『左肩から血を流しながら』僕はがら空きになったオオカミの顎に頭突きを繰り出す!
脳が揺れたオオカミがだらしなく舌を伸ばしながら地面に頭を付ける。
「最後の、最後で……油断、しちゃったな」
荒い息をつきながら僕はつま先を引っかけてナイフを抜く。オオカミが暴れないように鼻っ面を踏みつけて……残ったもう片方の目を蹴りつぶした。
さっきの攻撃が最期の足掻きだったのか、それとも僕の攻撃で完全に死んだのか。オオカミはいつまで経っても動き出すことは無かった、周りの空気が冷えていくのを肌で感じる……今度こそ勝った、よね?
それを確認した瞬間、身体から力が抜ける。血を流しすぎた僕は、貧血で酷い立ち眩みが起きていた。
「僕、死ぬの……かな?」
そう言い残して僕の意識は深い暗闇へと沈んでいく。ははっ、最期に『冒険』出来て……良かっ、た……
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