第7話 貧乏冒険者と死闘

 オオカミは音や匂いに敏感だ、この石造りの迷路である第5層は音が響くから壁の向こうにいるモンスターの音も響いてしまう。

 それは逆に僕の足音もそう、オオカミ相手にナイフが見える位置まで近づけたのも足音が響いてオオカミから僕の正確な位置が音で判断できないからだろう。


 じゃあ匂いの方はどうなんだ?というと……僕が大量に血を流した、今オオカミが居る場所の血の濃さが幸いして僕を血の匂いで発見できないという状況だ。

 だからオオカミもあそこで立ち往生しているんだろう……運が回ってきている。


 だが、夜目も効くオオカミは僕がナイフを拾うより先に僕を見つけるだろう。石造りの迷路でこのオオカミが生きていられているのも、それが原因だと思う。


 だから――


「正面から行くしかない……のかな?」


 正面から行ってどうする?返してください!って言いながら土下座……は無いね、うん。土下座した頭ごと食われて終わりだ。

 戦っても今の僕だと死ぬ可能性の方が速い……だから、戦うことじゃなくて『ナイフを取って逃げること』を考え――


「違う、いつまで逃げるんだ僕は……ッ」


『死ぬその一瞬まで夢に食らいついてやる』んだろ僕は。僕の夢はなんだ!?僕が憧れた『冒険』っていうのは、敵を前にこうしてこそこそ隠れることじゃないだろっ!


「僕の夢は……冒険者になることなんだ!」

「ッ……!」


 僕は全速力でオオカミに向かって走る!自棄やけになった訳じゃない、これは僕の……僕だけの『冒険』だ!


 オオカミは僕の声に気が付いてこちらに顔を上げる。さすがに声が響くといっても僕の姿と足音を出せば見つかる、獲物が向こうからやってきたとばかりにオオカミもこちらに向かって駆け出してきた!


 怖い怖い怖い怖い!怖い……けどッ!足を止めるなリド!右腕を食われたトラウマを置き去るように僕はさらに加速する。

 トラウマで足を緩めばそれこそ終わりだ!僕は出来るだけ通路の左端を駆け抜ける、オオカミの身体は巨大が故に小回りは村で見た狼よりは効かないはずだ!


 オオカミは僕に合わせて通路の左側に寄るけど、身体の大きさがネックになって走りづらそうにしている。

 それでもオオカミは僕を確実に逃さないとばかりに右足を狙って口を開ける、だったら……!


「跳んでかわす……ッ!」

「ッ!?」


 僕は力の限り走りながら前方にジャンプ、狙っていた右足がいきなり消えて驚いてるオオカミの鼻っ面を左足で踏みつけながら更にもう一度!

 巨大なオオカミの身体を跳び越すように跳んだ僕は、オオカミと位置が入れ替わる。


「とったぞ、僕のナイフ!」

「グルルルルル……ッ!」


 バランスを崩して着地に失敗し、地面を転がりながらながらも銅のナイフを掴み取る僕。鼻を踏みつけられて怒り心頭のオオカミにすぐさま向き直し、身体を起こした。


 攻撃手段は得た、目的も達した……、今こそ夢を追いかけるべきだ。

 これは欲じゃない、僕の夢だ。だから、油断は絶対にしてやるもんか。


「5層の敵でも、刺しまくれば倒せる……よね?」

「ッ……!グルルルゥ」


 左手でナイフを逆手に持った僕は獰猛どうもうに笑う。今まで獲物だと思っていたものの空気が変わったのを感じ取ったオオカミは……馬鹿にされているのかと思ったのか顔を怒りに染めて低くうなっていた。


 怒りに染まって、視野が狭くなる。そうなったら大抵の生き物は速く殺してやろうと……首元を狙い始める!


 オオカミは僕の首筋を狙って全速力で駆け寄りながら爪で引き裂こうとする、狙い通りだ。僕は肩を壁にぶつけるように横に跳んでかわす、転がって回避したら立ち上がる前にオオカミの追撃が当たってしまうしね。


 冷静に、戦況を組み立てていく。強大な力を持っているとはいえ相手は動物、動きは単調だ……怖いけど、動けてる。

 オオカミの外れた攻撃が石の床を叩き割っているのを見て、冷や汗が背中を伝う。一撃一撃が重い、駆け寄るときも速いし……ッ!続けざまに僕の方に向かって振るうオオカミの爪を頭を下げてかわす!


「危ない……息つく暇も無いじゃないか」

「グルゥ!」

「っと、隙は絶対できる。焦るな、僕に出来る全てを使うんだ」


 ガリガリと石の壁を削りながらオオカミの爪が頭上を通るのを感じつつ、僕は次の相手の動作を予想する。

 僕は壁に追い詰められてしゃがんでいる状況、振り向きながら左から右に爪を振ったオオカミは身体を右に泳がせている……ここからオオカミが攻撃する手段はッ――


「キャインッ!」

「低い位置にいる僕を攻撃するなら……尻尾しかないよね!」


 銅のナイフをオオカミの尻尾に突き立てた僕は、ブスリと刺さる感覚を覚えながら笑った……まずは一撃。

 いきなり来た痛みにたまらずオオカミが飛びのく、僕はそれに追いかけ……ようとしてやめる。


 ここで追いかけても速さは向こうの方が上、僕が距離を詰める前にオオカミが態勢を整えてしまう……落ち着け、ここで追撃するのは『僕に出来ること』じゃない。


 出来る、殺れる。綱渡りだけど、怖いけどッ!攻撃が通る!僕は次のオオカミの攻撃に備える……オオカミの目は獲物を狙うものから敵を見る目に変わっていた。


―――――

【後書き】


 ここまで読んでいただきありがとうございます。次の更新は明日の18:00になります、ゆっくりとお待ちいただけると幸いです。

 

 今回の作品は死ぬほど趣味で書いてますのでウケるかどうか分からないですが……笑

 楽しく書いていきますので、一緒に楽しんでいただけると嬉しいなぁと思ってます!

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