第3話 貧乏冒険者と武器工房
砥石を求めていつもの武器屋へ。目的は砥石……買いに行ったら絶対『俺の武器まだ買えねぇのか!?』って怒られそうだ。
いや、確実に怒るだろうなぁおじさん……
カランカランッと扉に付けられた来店を知らせるベルが鳴り、それに呼応するかのように奥から野太い男の声がした。
「いらっしゃい、ようこそ武器工房『ニーズヘッグ』へ!今日はどの武器を……って、坊主かよ」
「あはは……おはよう、ポピンズおじさん」
僕を見て先ほどまでの来客用のテンションを一気に下げたこの巨漢のおじさんは、ポピンズさん。
この『ニーズヘッグ』で自作の武器を売っており、今日もさっきまで
うーん、今日も光り輝いているなぁ。
「俺の頭見るんじゃねえよ、毎回言ってると思うが俺はハゲじゃなくて髪が金槌振るのに邪魔だったから剃り上げただけだからな!?」
「うん、わかってるよおじさん」
「じゃあなんでお前の視線は俺の目線より上を向いているんだ、あぁ!?」
いだい、いだいよおじさん……ぐりぐりと僕のこめかみを両拳で押さえつけたおじさんは満足したのか、ふんっと一言鼻を鳴らした後に僕に向き直った。
「んで、今日は何の用だリド?本当に冷やかしか?」
「いや……実は、砥石をぉ……買いに、ははっ……」
「はぁ、坊主が俺の武器を買いに来る日は一体いつになることやら」
呆れた目で僕を見てくるおじさん、うっ……最初に銅のナイフを買って以降『ニーズヘッグ』には砥石しか買いに来てない。おじさんも諦めているのか、僕にそれ以上何も言わずにカウンター裏から一つの砥石を持ち出してきた。
「おら、50ギル」
「……一応聞くけど、安くは……?」
「砥石一個で値切らなきゃいけないぐらい貧困なら冒険者やめろお前」
どっかの街で城壁作る土木作業の方が今のお前より稼げるぞ、と呆れかえりながらおじさんが言う。分かってるけど、でもさぁ……
「冒険者って、ロマンじゃない?」
「ロマンで飯食えてたら、今頃坊主はそんなガリガリに痩せて砥石を値切るなんて無様な光景を俺に見せなくて済むと思うが?」
「うっ……」
何も言い返せない。僕がうつむいていると、俺は別にお前をいじめたくて言ったわけじゃないんだが、とおじさんは頭をポリポリ掻いて――
「冒険者ってのはハイリスクなのにローリターンな職業だ、命を落としてしまうようなリスクを毎日
取り返しのつかないことになる前に……夢から覚めたほうが良いぞ、と低い声を出しながら僕の頭にそっと砥石を乗せるおじさん。半分脅すようにそう言ったおじさんは、何かを悔やむように遠い誰かを思い出しているような目をしていた。
僕だってわかってるよ、小さいころに村で見た強そうな冒険者とか物語で聞く英雄
欲を出した冒険者がダンジョンから帰らぬ人になったり、日銭を稼ぐことすら出来なくなって路上で物乞いをしている冒険者崩れも……それこそ何人もいること。
よく、知ってるさ……でも。僕は頭に砥石を乗せながらおじさんの顔を見るように下を向いていた顔を上げる。
「僕は、冒険者なんです」
「決意は固い、か……俺は言ったからな。『夢に食い殺されないようにせいぜい気を付けな』坊主」
おら、話は終わりだとばかりに50ギルを受け取ったポピンズのおじさんに僕は工房から追い出される。
客ですらない僕は追い出されて当然だよね、と一人
「『夢に食い殺されないように気を付けろ』、か……」
おじさんに言われた言葉を僕は歩きながらつぶやく。冒険者としてお金を稼いで、たらふく美味しいもの食べて、強そうな武器や鎧を着て。
強い敵を倒して、ダンジョンの奥地を探索して……そんな夢、冒険者みんなが持っているはずじゃないか。
そのためにダンジョンに潜るのであって、第一層でスライムを狩っているのも夢を追いかけるためで……
なんだよ、やっぱり僕たちが思う夢は、僕たちが『冒険者』として活動を続けられる立派なものじゃないか!
僕はおじさんの言われた言葉を一蹴する。何が『夢に食い殺される』だ……夢は夢、叶えるものであって危害なんて加えるわけない。
「僕の夢は変わらない、強い冒険者になってダンジョンの奥地を探索する。ついでにおなか一杯にご飯を食べて自分の家も持つ!」
日が昇ってお昼ごろのオルルコの空を見上げながら僕は再び夢を見据えた。明日からバリバリ頑張るぞー!
砥石も買って赤字だし、明日はスライムを倒す数を増やさないといけない。そのためにも砥石で銅のナイフを
僕は自分の荷物を担いで朝に顔を洗った川に向かう。おじさん見てろよ、絶対に夢を叶えておじさんの武器を買い占めてやるんだからな!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます