第5話 侵食

 インターフォンの音が鳴る。鳴りむと窓の外に頭蓋骨が現れる。これが繰り返されていました。


 わたしは頭蓋骨が怖くて、窓に背を向けて立っていました。それでもインターフォンの音からは逃れることができず、耳を塞いで耐えることしかできません。


 また何分なんぷんか経ちました。また何十分なんじゅっぶんか過ぎました。もう心の余裕なんてないのに、今度は新たに──ガチッガチッという微音が聞こえてきます。


 それは廊下に通じるドアから聞こえてきます。ガチッガチッ、ガチッガチッ、ガチッガチッ。わたしは恐る恐るドアに近づきます。


 ──ガチッ、ガチッ。

 ──ガチッ、ガチッ。ガチッ、ガチッ。


 これはまさか、ドアのロックがかかったり外れたりする音……でしょうか。そうだとすれば、今このドアには鍵がかかっていないも同然です。わたしはドアノブを掴み、ゆっくりと回してみます。


 呆気なくドアは開きます。廊下の白色の壁が正面に見えます。


 わたしは部屋を出ました。それと同時に、インターフォンへと導くかのように、電気が一斉にきます。


 玄関に向かうことも考えました。しかし先に『インターフォンを鳴らすモノ』の正体を確認して、備えておくべきだと思いました。光に誘導されるままに廊下を進み、リビングに到達します。


 ──ピンポン。

 ──ピンポンピンポン。


 リビングのインターフォン親機の前に来ます。呼び出すモノの正体を確かめるためには通話ボタンを押す必要がありますが、躊躇ためらってしまい、なかなか押すことができません。


 ──ツッ。


 それなのに、まるでボタンを押したかのように通話の接続音が鳴り、インターフォンの音がまりました。


 そして代わりに、あの音が鳴り響きました。


『おおおあああああ。おおおちゃああああ。おおねあああん。


 ぞっとなり、思わず後退してしまいました。今、「お姉ちゃん」って言った?


『おおおああああん。おおええちゃああああ』


 言っている。気のせいではありません。そうだとすれば、玄関の外にいるモノは──わたしは外部の様子を確認するため、インターフォンカメラの映像をよく見てみます。


 真っ暗でした。なにも見えません。でもしばらく見ているうちに、これは暗いのではなく暗いモノを映しているのだと気付きます。


 外を飛び回っている頭蓋骨のことを思い出します。その眼窩がんかの奥にあった暗闇のことを思い出します。つまりわたしが見ているものは、わたしが聞いているものは──


『おおおええええあああああああああああ!』


 わたしの妹。妹の頭蓋骨の眼窩がんか。頭蓋骨から発せられる声。わたしの妹の声。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る