第4話 飛来

 インターフォンの音は続きます。


 ピンポンピンポンという、今となっては不気味にしか思えない音。わたしは聞きたくないという気持ちとは裏腹に、その音の正体を突き止めようと耳に神経を集中させてしまいました。


 そして、の存在に気付いてしまいます。


 ──おおああああ。

 ──おおおああああああ。


 ピンポンという音に混じって、人の声らしきものが聞こえてきます。くぐもっていて、なにを言っているかまでは分かりません。ただインターフォンの音どころではなく不自然であることは明白でした。


 インターフォンの応答をしていないのに、通話なんてできるはずがありません。またこの家はわたしの部屋だけでなく、家全体が外部に対し完全防音になっていて、ドアの外で叫んだところでわたしのところまで声が届くことはありません。


 つまりこの声は聞こえてきているのです。


 インターフォンの音は続きます。くぐもった声も続きます。わたしは音を聞くのをめて、ベッドの上に寝転び、耳を塞ぎました。考えることをめました。ただただ音が終わることを待つことにしました。


 何分が経ったでしょうか。予兆もなく、前触れもなく、インターフォンの音がまります。静寂が場を支配します。わたしは少し待ってから、音がしないことに安堵して体を起こし──


『おおおあああああああ』


 突然──インターフォンのコール音に混じっていた──あのくぐもった声が、より明瞭になって、より近くから聞こえて、思わず仰け反ってしまいました。


 どこから聞こえたのでしょうか。嫌な予感。嫌な確信。この部屋で外部と隣接している箇所は一つしかありません。


 わたしは窓の外を見ます。そこには


「ひ」


 悲鳴すらも出ません。逃げようと思っても、恐怖で指一本として動かすことができません。人間の頭蓋骨が窓の外でぷかぷかと浮いています。人間の頭蓋骨だけが窓の外で右に左にと揺れ、時折、勢いよく窓にぶつかってきます。


 この部屋に侵入しようとしているようでした。わたしはただそれを眺めています。眺めることしかできません。インターフォンの音のように、勝手に終わってくれることを祈ることしかできません。


 やがてわたしの祈りが通じたのか、頭蓋骨はどこかに飛んで行きました。


 ──ピンポン。

 ──ピンポンピンポン。


 そしてまたインターフォンが鳴り始めます。

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