第2話 交渉

 翌朝、早速冒険者ギルドへ来た。今後の計画を考えていたら早く目覚めてしまったのだ。


「あ、レオンさん! どうしたんですか? こんな時間に」

「実はな……」


 受付嬢に声をかけられパーティーを脱退した旨をつたえたのだが、俺の想像していた以上に驚かれた。


「レオンさんを手放すなんて……レオンさんのポーション、いえ、エリクサーの価値はギルドも認めていますし……もちろんパーティーメンバー外には知らせていませんでしたが」

「それももう知らせてくれて良くなった」


 専売契約も今はない。俺が自由に売っていいのだからむしろ知らせてくれたほうが助かる。


「今後どうされるのですか? 希望でしたらパーティーを斡旋しますし、しばらくソロでと言うならギルドが全面的に強力しますよ」

「そこまでしてくれるのか?」

「当然です。レオンさんのエリクサーは大変貴重ですし、もしも何かあってしまえばギルドとしても大きな損失となってしまうでしょう」


 どうやら想定していたよりも公営ギルドは俺のことを高く評価してくれていたらしい。


「競合するから言いにくかったんだが、私設ギルドでも作ろうと思うんだ。世話になったし出来るだけ迷惑かけない場所にしようと思うんだけどいい場所あるかな?」

「私設ギルド……! いいじゃないですか! レオンさんは盟主にうってつけですし、正直我々公的なギルドではサポートしきれない冒険者でも、レオンさんが錬金術でサポートして育成してもらえたら、地域が活性化してこちらも助かります!」


 良かった。ギルド側も俺の提案を悪く思っていないようだ。後は元Sランク冒険者のギルドマスターが首を縦に振ってくれればいいのだが。


「詳しいことはマスターをお呼びするのでお話してください」

「助かる」


 本来ギルド冒険者が立ち入れない奥の部屋へと案内された。


 ♢


「……ほう。ならばとっておきの場所がある。ここから遠くないから見てみるか?」

「ロックの仕事は良いのか?」

「まさに今が仕事中だ。レオンが私設ギルドを作るならこちらとしても協力したい。いわばお前に時間を投資しているようなもんだからな」


 ガタイがよく気風の良いギルドマスター。

 普段から仲がよくこうして喋ったりするんだが、いくら仲が良くても仕事の話は誰にでも平等にするところがコイツの良いところだ。


「随分と買ってくれるんだな。よろしく頼む」

「馬で半日くらいの場所になっちまうが……お前なら走ったほうが早いな」

「まぁそれはそうだが……半日走るのか……」

「なに、俺に着いてくりゃすぐだ」

「おい……」


 ロックは一線を退いたといえどSランク級の実力はまだ健在だ。

 そのスピードについて来いときたか……。


「どうした? 馬を借りるか? 半日もかかっちまうがな」

「いや……走るよ」


 追いかけるのがやっとだったが、体も鈍っていたし良い運動だ。

 流石に息は上がったが、昼になる前に目的地へ到着した。


「ここって……」

「あぁ、今のギルドが移転する前の建物だ。ここじゃあ公式ギルドとしては不便だったから今の場所に移転したが、環境はこっちの方がいいかもしれねぇな」


 ロックの言う通り建物は古いが、ある程度整備すれば十分に使えそうだ。

 何よりも周りに何もない。これならば外で訓練することだってできる。


「ここならそれなりにやっていけそうだな。だが、持ち合わせが少なくてな……支払いは分割で購入もしくは売り上げが入るようになってからでも良いか?」

 図々しいことは承知の上だ。

 金はハルトたちに奪われて無いし、ソロでモンスターを討伐していったとしても建物と土地を購入する金額まで稼ぐには時間がかかってしまう。


「ローンを組んでもいいんだが、お前、あのエリクサーは何本ある?」

「ん? ああ、手元にあるのは7本だ」


「よし。全部買う。というか、それが建物代でいい」

「はぁ!? いくらなんでも」


 建物を購入するのには安すぎて割に合わない。ロックが友情割引をしてくるはずもないんだが。


「ああ、もちろんそれだけじゃぁねえ。専売契約だ。だが、お前のとこのギルドでも売っていい」


 ロックの目は本気だ。

 それも、しっかりと仕事用の目だった。

 つまりそれで採算が取れると見込んでいるわけだ。


「俺のとことお前のところ、そこでしか手に入らねえ。しかも安い値段では渡さねえ。おそらくAランクでも上位じゃねえと手が出ねえな。お前の元パーティーはAランクだが下位だからな。喉から手がでるほど欲しくなるだろうよ」

「良いのか?」

「ああ。お前のとこに若いのは送り込む。育ったらこっちの仕事もいくらか受けてくれよ?」

「願ったり叶ったりだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る