第3話 弟子

 ロックのおかげで建物も人材も手に入った。


「トム、タン、キャサリー、シンディー。今日からここでよろしく頼む」


 建物は長年使われていなかったようで、中はホコリだらけで荒れている。


「すまないが、みんなは清掃と備品の調達を頼みたい。俺はエリクサーの錬金を全力で行う」

「「「「はい」」」」」


 エリクサーは丸一日かければ五本錬金できる。

 本格的に稼働すればそんな時間は取れないんだ。ロックのとこに出すことを考えれば今のうちにできるだけ量産したい。

 私設ギルドの運営を始めるまでの間、俺はできる限りエリクサーを錬金して、働いてもらう従業員たちには建物の整備と清掃を行ってもらった。


 数日間、みんなが一生懸命に働いてくれたおかげで、見違えるほど綺麗になった。

 それと同時に、俺もエリクサーづくりで進展が得られていた。


「ありがとう! これなら冒険者たちも来てくれるだろ」

「マスターもお疲れ様です……。まさかあのエリクサーを短期間でここまで作られるとは驚きです……」


 受付嬢として雇ったシンディーがそう言ってくる。

 そう。俺はここ数日で、エリクサーの製造方法の改良を行っていた。結果……。


「まさか百本以上作るなんて……」

「やればできるもんだな……それにしてもシンディー。大丈夫か? 顔色が良くないぞ」

「いえ……。マスターの働きぶりを見ていればこのくらいなんともありません!」


 なるほど。

 俺が働きすぎるのも良くないわけか……。


「ずっと掃除ばっかりで悪かったな。これ一本ずつサービスだ。遠慮なく飲んでくれ」


 それにせっかくだ。この改良版エリクサーの効果も見たい。


「ちょっとレオンマスター! これエリクサーじゃないっすか! 流石にもらえませんよ!」

「トムの言うとおりですぜ! 売り物でしょう!?」

「飲んでみたい気持ちはある。でも安易に受け取れない」


 四人からは遠慮されてしまう。


「気にせず今日は飲んでくれ。売っていく側が味や効果もわからないまま説明できないだろ? 覚えるのも仕事だ。それに疲れも吹っ飛ぶ! 飲んで明日からまた元気に頼む」


「「「「ありがとうございます」」」」

 ゴクゴクと一気に飲むものもいれば、キャサリーのように匂いを嗅いだり舐めたり色々と調べながら嗜んだりと様々だった。


「マスター、エリクサーに能力開花の効果もあります?」

 キャサリーが首を傾げながら尋ねてきた。


「いや、流石にそんなものはなかったはずだが」

「今まで魔法を使えませんでした。ですが今は、手に魔力を集中すれば魔法を発動できる気がするのです」


 試しに外に出て魔法を放つ素振りをしてもらったのだが、手から電撃が発動し、岩に命中したのだ。

 彼女は元々魔力は持っていたが、魔法は使えなかったはず。


「マスター、間違いなくエリクサーに付与がついている。数日の努力の賜物」

 普段は最低限の言葉しか話さなく大人しいキャサリーが初めて笑ってくれた。

 俺も嬉しい。

 まさかエリクサーにそんな付与まで出るとはな。


 ♢


 準備が全て整い、私設ギルド運営初日なのだが……。

 最初にやってきたのは、ロックからの紹介でやってきたという女冒険者ー人だった。


「あ……あの、私ソフィアと言います。レオンさんが私設ギルドを作ると聞いたのできました。是非、私を弟子にしてほしいんです!!」

「弟子?」

「はい! ギルドマスターのロックさんからも推薦してくれたんです! 私のような初心者はこっちで活動した方が伸びると。レオンさんの力をお借りすれば活躍できるはずだと!」


 ロックの推薦か。

 公的なギルドと私設ギルドの最大の違いは、専属冒険者の有無だ。

 仕事の斡旋や生活物資の供給が目的であるギルドの機能に加え、私設ギルドは冒険者の囲い込みを行う。

 専属冒険者は私設ギルドでの仕事を優先したり、一部の売上を収める必要がある代わりに、ギルドから様々な恩恵を得るのだ。

 ギルドによっては固定の給与を出して冒険者を囲い込む場合もある。

 そして俺が作ったこのギルドでは、エリクサーの提供と、それに基づいた育成が、専属冒険者のメリットだった。


「わかった。ソフィアはソロ冒険者なのか?」

「はい。実は……私が弱いせいでメンバーに加入させてくれるところを見つけられなかったんです」

「一回腕前を見せてくれるか? 俺と模擬戦してもらいたい」

「は……はい!」


 緊張で声を震わせるソフィア。

 従業員組も固唾を呑んで見守っていた。


「武器は何が良い?」

「剣術を少々やっていましたので剣がいいです。普段は主に魔法ですが」


 見た目通り魔法使い。

 だがパーティーを組んでいるわけじゃないなら、多少なりとも武器は扱えたほうがいいだろう。

 模擬戦だからソフィアに怪我を負わせたくはない。


「ちょっと持っている剣見せてくれるか?」

「え? あ、はい」


 見せてもらった武器を実際に持ってみたり振ってみる。

「なるほど……、大体分かった」


 これを参考にして、重量や重心、形は全く同じ模造剣を二本錬金した。

 片方をすぐにソフィアに手渡した。


「す……すごいです! い……一瞬で!」

「どうだ? 振り心地に違和感があれば微調整できるけど」

「いえ……これなら……あ、でも……」


 ソフィアが言いよどむ。


「なんでも遠慮なく言ってくれ」

「で、でしたら……魔法の伝導率が少し、良くなりすぎているんです」


 ソフィアの剣は一部杖としての効果も持っていた。

 伝導率はたしかに元のものを下回らなければいい、くらいで考えていたんだが……。


「よく気づいたな」

「いえ……昔から道具のことだけはわかるんですが……」

「良い才能だ。じゃあ……」


 ソフィアから作った剣を受け取って、もう一度錬金を施す。


「これならもとの剣のまま、使い心地に差が出ないだろ?」

「はいっ!」


 道具の差異に細かく気づく才能は重要だ。

 特に俺の使う錬金術では、最も重要視される能力といってもいいだろう。

 もしかするとソフィアは──。

 まあ今は、模擬戦に集中しておこう。


「これなら俺もソフィアも死ぬことはないから遠慮なく全力でかかってきてくれ。魔法も状況に応じて使って構わない」

「はい!」

「じゃあ、コインが落ちたらはじめだ」


 錬金したコインを指で弾く。

 一瞬見入るようにその光景を眺めたソフィアだったが、すぐに剣を握って集中する。


「行きます!」

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