追放された最強錬金術師、ギルドマスターとして規格外の新人育成〜お前らが栄養剤と思って毎日作れと言ってくるお手製ポーションは特級エリクサーなんだけど、本当にもう俺がいなくても大丈夫か?〜

よどら文鳥

第1話 追放

「レオン、お前はもういらない」


 パーティーリーダーのハルトが俺にそう告げた。

 宿の一室、周囲のパーティーメンバーも、誰も何も言わない。

 パーティー結成から五年、ここ数年は毎日ポーションづくりを求められてきて、戦闘時は後ろに引っ込められてきた。

 完全な裏方、いつかこうなる予感はしていたが……。


「いいのか?」

「は?」


 俺の確認に目を見開くハルト。


「もうポーションはなくなることになるぞ?」

「何を言うかと思ったら……」


 俺の指摘に答えたのは女魔術師のミネス。


「あのねぇ、貴方がポーションづくりをしていたのは、戦闘で役に立たないから、せめて仕事をしてると思わせてあげるためのハルトの優しさよ。それで勘違いしちゃったなら哀れとしか言いようがないわね」


 戦士グルドがそれに続く。

「可哀想になぁ? 何も出来ねえからあんな栄養剤程度で役に立ってると思いこんでたわけだ」


 なるほど……。


「わかった。脱退は構わないけど、今後はこのポーション、自由に売るけどいいんだな?」

「はいはい。好きにしろよ。というかポーションの専売契約だってお前のためにしてやってた配慮だっての。いい加減気付けよ」


「ああ、じゃあ、元気でな」

「待てよ」


 宿を去ろうとした俺にハルトが声をかけてくる。

 振り返ると……。


「忘れもんだよ!」

 ポーションが俺の頬をかすめて壁に叩きつけられた。

 ガシャンと音がなり、中の液体が周囲をびしょびしょに濡らした。


「ぎゃはは! いいねえ。もうこんなもんいらねえもんなぁ!」

「そうね……」


 グルドとミネスも続けて持っていた瓶を叩き割る。

 ご丁寧にミネスが魔法で蒸発させ、掃除も完了。もう彼らに、俺のポーションは一つもなくなった。


「あばよ! お前がいなくなれば俺たちは今以上に活躍できるし、稼げるんだ」

「せいぜい栄養ドリンクの販売で食いつなげることを祈っててあげるわ」

「そもそも夜に宿を出て生きていけるかもわかんねえからなあ? 俺たちの介護なしじゃ」


 三人が口々に好き勝手言う言葉を背中に受けながら、俺はパーティーを離脱したのだった。



「さて……ラッキーだった」


 雑用ばかりで前線に出ることがなくなって二年。

 ハルトの頭にはもう残っていないようだったが、俺を前線から退けたのはあいつの指示だ。


 新人育成、という名目で、ちょうどミネスとグルドが加入したタイミングで俺を後ろに下げた。

 その代わり補助役として、錬金術師である俺の特技を生かしたサポートを頼まれ、用意したのがこのポーションだった。


「いや、ポーションのくくりじゃ、ないんだけどな」


 あいつらが二年間”栄養剤”と思って飲んでいたものは、身体能力を倍以上引き出す秘薬だ。副作用は強制的な超回復。

 副作用込みで有用な軌跡の薬品、それがこのポーション……いや……。


「錬金術的にいえば、エリクサーか」


 飲み薬の中でも著しく高い効果を誇るものを、錬金術師はそう呼ぶ。

 身体能力の向上と成長を促す薬。


 正直に言えばこれだけで食うのに困らない稼ぎが見込めるんだが、そうしなかったのはハルトが俺に”専売契約”をさせていたからだ。

 パーティーメンバー以外へは提供しない。その代わり一定の金額を支払い続けるという契約。

 それも今日で終わり……。


「さて……どこかで店でも開くか、それとも……」

 薄暗い街を歩きながら、これからの可能性に胸を膨らませていた。

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