新訳:桃太郎伝説
@96ktkhrk
第1話
時は現代。
とある地域に一組の老夫婦が暮らしていた。
お爺さんは庭の草木の手入れを、お婆さんは脱衣所で洗濯をしていました。
その時 ピーンポーン
「ごめんくださーい」
誰かが来た。
「はーい、今出ます!」
お婆さんが玄関に行くと
「こんにちは、佐川です。お届けに参りました。」
「あら、爽やかなお兄さんだこと。ご苦労様です。」
荷物の差出人は息子夫婦からだった。
お爺さんの草木の手入れがひと段落ついたため荷物を開けることにした。
荷物を開けてみると立派な桃が6つ入っていた。1つ500円ほどしそうな大きい桃だ。
中に2つメモが入っていた。
[お父さんお母さん元気ですか。山梨県産の桃を送りました。近いうちに息子と一緒に帰ります。]
[この桃の中の1つだけ遺伝子組み換えがされています。]
メモの内容は息子夫婦の帰省の知らせとよくわからない奇妙なものだった。気にする必要はないだろう。
数日が経った頃、異変が起きた。
桃が一つだけ大きくなっていた。すでに収穫されてもう食べる寸前だというのに桃が届いたときに比べ二回りほど大きくなっていた。
お爺さんは思った。(この桃が遺伝子組み換えされた桃なのか?だとしたら最終的にはどうなるんだろう。)
お婆さんは思った。(この桃はもっと大きくなるのかしら。もしまだ大きくなるとしたら置き場に困るわ。)
この老夫婦に《廃棄》という選択肢はすでになかった。
桃が大きくなり始めてから1ヶ月が経った頃、桃の大きさは手のひらに乗るサイズから大きめのバランスボールほどになっていた。
「ねぇお爺さん、そろそろ桃の中見てみない?」
「あぁお婆さん、ちょうどそう思っていたところだよ。」
お爺さんとお婆さんは意見が一致したので大きくなった桃を切り、中を見ることにした。
お爺さんとお婆さんは中にあった物を見て驚愕した。
なぜなら、赤ん坊のような生命体がいたからだ。
2人の間に沈黙が流れた。当たり前だ。桃の中に赤ん坊がいたら誰でも言葉を失うに決まっている。
静寂を破るかのようにお爺さんが言った。
「育てみよう。」と。
「じゃあ名前は何にしましょうかね。」とお婆さん。
お婆さん、案外乗り気であった。
「桃から産まれたからな、【桃太郎】というのはどうだろう。」
「桃太郎…ちょっと安直すぎやしませんか?桃から産まれたからって桃太郎だなんて、【桃之助】にしませんか?」
「桃之助も同じようなもんだろ。」
その後も様々な名前が飛んでは消えを繰り返した後、この赤ん坊の名前は【桃太郎】になった。
俺の名前は桃太郎。21歳の名大生だ。親代わりのじっちゃんとばっちゃんと3人で暮らしている。
両親はいない。物心ついたころにはじっちゃんとばっちゃんと一緒だった。両親のことを聞いてもいつもはぐらかされる。
俺の両親に何があったんだろう。今はそんなこといいか。今の生活が続くなら...
「お婆さん、わしの朝食はまだかね」
「お爺さん、お風呂はもう入りましたよ」
「じっちゃん、ばっちゃん、会話になってないよ。」
たわいもない会話で時間が過ぎていた。
prrrrrrrr/prrrrrrrr
「ばっちゃん俺が出るね。はいもしもし。」
「(鬼)恐れ入ります、私{株式会社デーモンアイランド}マンション開発担当の鬼塚と申します。今回お住いの地域でマンションの建設と周辺の再開発を検討しており、一度お話をさせていただきたくご連絡させていただきました。ご都合の良い日程はございますでしょうか?」
「(桃)マンションですか...ちょっと考えてから話聞きますので後日、2.3日後くらいに折り返ししますね。はい、失礼します。」
建設会社からマンション建設の計画があると言われ驚いた。
「困ったな...マンション...ついにこの町にか...」
「桃くんどうしたんだい。」
「ばっちゃん、さっきの電話がね,,,,」
「そうかい、ご近所さん達にも話が行ってるのかねぇ。」
「そうだ、明日は第3金曜日だ。町内会議があるから俺が行って話してみるよ。」
2022/3/18 前原東町公民館
「(桃)そろそろ始めましょうか。町内会議。今日、話したいことがあるから議長をする桃太郎です。よろしく。」
「(柴)桃太郎君か、大きくなったな。覚えているか?俺は肉屋の柴森(しばもり)だ。」
「(黒)桃、どうしたんだ?わざわざ議長をやるなんて言ってなんかあったか?おいらは石工の黒猿(くろざる)だ。」
「(烏)・・・・・進めよう。僕は烏丸(からすま)。ライターだ。」
「(桃)昨日不動産会社から連絡があって、皆さんのところにも来ていないかなって。」
「(黒)そういえば!3日ほど前に来たな。おいらは訳わからなくて切ってやったぜw」
「(柴)俺も昨日来たぞ。とりあえずまた連絡するって言っておいたわ。」
「(烏)・・・知らないな。」
「(桃)俺はじっちゃんとばっちゃんに育ててもらったこの町並みが好きだ。道の舗装とかならまだいいと思うんだ。」
「(柴)俺もマンション建設はもちろん反対だ。この町の雰囲気が気に入ってんだ。」
「(桃)俺たちで何とかできないもんかな。」
「(烏)・・・・署名集めて町民全員で抗議するか。」
「(柴)全員は厳しいだろう。年寄りが多いんだ。」
「(黒)んじゃ、おいらたちでやればいいんじゃね?署名だけ集めて。」
「(桃)俺たちでか?できるもんかな。」
「(黒)できるんじゃねぇのかな。知らんけどもよ。」
「(柴)えっとやるとしてまず何するんだ?」
「(烏)・・・まずは実行するのは僕ら4人でいいだろう。次に敵は,,,」
烏丸の話のはこうだ。
1、実行するのは俺たち4人
2、敵は{株式会社デーモンアイランド}開発担当鬼塚。
3、準備することは町民に説明&署名をもらう
4、何を切り口にしてこのマンション建設をやめさせるかだ。
「(桃)よし、じゃあ俺と黒と柴さんで町民に説明と署名をもらおう。烏は戦う準備を頼む。ライターだろ?」
「(烏)・・・任せろ。」
「(黒&柴)分かった!」
〜
「(鬼)お電話ありがとうございます。株式会社デーモンアイランドマンション開発担当の鬼塚です。」
「(桃)先日マンション開発の話で電話が来て、後日折り返すと言った者です。直接詳しい話をお聞きしたいので1週間後にお会いできませんか?」
「(鬼)ありがとうございます。では1週間の15:00頃そちらに伺わせて頂きます。よろしくお願い致します。」
〜
「(桃)………ってことがあってね。」
「(ば)へぇ……あらまぁ……」
「(じ)マンション建設か…… 会社はなんと言ったかの?」
「(桃)デーモンアイランドだよ」
「(じ)ぬぅ?ほぉ…デーモンアイランドとはな」
「(桃)じっちゃんなんか知ってるの?」
「(じ)いや、イカス名前しとるのぉってな」
「(じ)桃よ、お前に渡しておく物がある。婆さんや、あれとってくれんか」
「(ば)はいはい、あれですか。」
「(桃)あれって?」
「(じ)ほれ(っ´-`)╮=͟͞ 」
カラン
「(桃)うわっ!投げないでよぉ。なにこれ、ネックレス?ペンダント?」
「(じ)それはわしが若い頃に使ってた銀時計じゃ。桃も20歳超えてそういうの持っておいた方がいいだろう。今度の話し合いの時には必ず首から掛けて行きなさい。いいね?」
「(桃)分かったよ、ありがとう」
~
グループLINE
「(黒)なぁ、明日だったよな。話し合いというか話するの。」
「(桃)そうだよ。なんかあった?準備は大丈夫だろ?」
「(柴)黒、お前はあまり喋るなよ。アホがバレるから。」
「(黒)なんだと!その通りだけどな!おいらは細かいことはわかんねぇんだ!」
「(桃)で、黒どうしたの?」
「(黒)チーム名欲しくない?4人のさ。」
「(柴)はぁ、何かと思えばやっぱりアホなことを……そんなものはな……」
「(黒)だってさだってさ、あっちは会社名あるじゃん?でもこっちは4人いるのに何もないなんてかっこ悪いじゃん。対抗して作ろうよー
。会社作るなんて言ってるわけじゃないんだしぃ〜」
「(柴)桃、どうする?作るか?」
「(桃)チーム名かぁ……あってもいいなぁ。なんかいいの思いつく?」
「(黒)そういうのは苦手だな」
「(柴)言い出しっぺだろ、考えとけよ」
「(烏)・・・ある。」
「(桃)え?なに?どんなの?」
「(烏)・・・M4」
「(柴)M4?どんな意味があんだよ」
「(烏)このチームのリーダーは桃だ。だから桃が中心の4人組。M4。またの名を《桃も桃も桃》だ。」
「(桃)なんか噛みそうなやつだな。でも面白い。採用だな。」
「(柴)ふ、ふ、ふーん。いいの作るじゃねえか。心の中→〖危ねぇ……ピーチボーイズなんて提案しなくてよかったぜ。〗」
「(桃)じゃあチーム名も決まったし明日に備えて寝るか。遅れるなよ?」
2022/3/25 ゲートタワーホテルロビー
「(鬼)お待ちしておりました。鬼塚です。」
「(桃)こんにちは。連絡した桃太郎です。」
「(鬼)お連れ様がいらっしゃるんですね。少し広い席にしてもらっておいてよかった。」
「(桃)みんなも話を聞きたいって言うんでね。人数増えることを伝えずに申し訳ないです。」
「(鬼)大丈夫ですよ。皆さんの町の話ですからね。」
「(鬼)それでは改めて簡単に自己紹介させていただきます。株式会社デーモンアイランド開発担当の鬼塚源(おにづかげん)と申します。今回は前原東町にマンションの建設を考えておりまして、そのために現住民の方々に説明をさせて頂きたいと考えております。この町は市街地から見ても郊外に位置しますがかなり好立地だと判断しました。市の方にも1度話を通しており住民から賛成の声があればいいと許可を頂いております。」
「(桃)まだ説明の途中だと思いますが、この話に賛成は致しません。私達4人だけの意思ではありません。町民の署名も既に書いて貰ってます。」
「(鬼)やることが早いですね。その署名、ほんとに町民の皆さんに書いてもらったんですか?でっち上げとかでは無いですか?」
「(烏)それはあんたの方だろ。鬼さんよ。」
「(鬼)どういうことでしょうか?えっと…」
「(烏)挨拶が遅れたな。烏丸だ。あんたは過去に2ヶ所マンション建設し、1ヶ所断られてるな。他県だがどの場所も俺たちの町のような市の中の郊外だな。狙ってるのか?」
「(鬼)よく調べましたね。市の中の郊外は近年マンション建設には適してるとされるんですよ。あなた達の町は三大都市圏にも程よい距離じゃないですか。都会で仕事があるが田舎っぽい、自然を感じたいという方は多いんですよ。需要があるのでね。おかしい所はないですが、それがどうかされましたか?」
「(烏)俺が言いたいのはそういう事じゃないな。確かに立地条件と需要は合っているが過去に建設した住民に通知はしたのか?強引に話を進めたんじゃないのか?そうしたよな。その2ヶ所は俺たちみたいな若者がほとんどいない場所だからな。お年寄りを丸め込むのは簡単だったろうな。もう1ヶ所は今の俺たちみたいに断られてるんだろ?なぁどうだよ。」
「(鬼)丸め込むなんてそんな…心無いことを。そんなことないですよ。住民の方々には通知も致しましたし納得していただいて進めたものですよ。最後の1ヶ所はご理解頂けなかっただけなのでこちらの説明不足……と言ったところでしょうか。」
「(烏)ふーん、じゃあなんで前の2ヶ所には前の住民がほとんど居なくて新しい住民ばかりなんだ?」
「(鬼)なぜそれを?」
「(烏)あいにくライターなんでね。今日の話を聞く前に色々調べとこうと……まぁ職業病というかそんな感じのやつだ。得意なんだよな。」
「(黒)なぁ、柴さん。烏はどうしちまったんだ?いつも喋らねぇのに。」
「(柴)そうだよな、黒。俺たちの前にいるのはほんとに烏か?」
「(桃)俺は小さい頃から知ってる。烏はな言いたいことをまとめて言うんだ。しかも真面目は場所の話だとめちゃくちゃ饒舌で強いんだ。」
「(鬼)烏丸さん、あなたはどこまで知ったんですか?」
「(烏)さぁね、あれがどこまでなんて俺には分からないね。ただし、ここで止めておかないといけないなとは思ったな。」
「(?1)鬼塚くん、何やら不思議な言葉が出てきたけどどうしたのかね?」
「(烏)誰だあんた。」
「(鬼)しゃ、しゃ社長!!!」
「(?1)話の途中に割り込んで申し訳ない。株式会社デーモンアイランドの社長の桃野一護(もものいちご)です。鬼塚がね、今回の件は凄い凄いと言い張るもんでねちょっと様子を見にこさせていただいたんですよ。」
「(烏)で、不思議な言葉って?」
「(一)いいや、こちらの話ですよ。気にしないでください。」
「(烏)あんたとはサシで話がしたい。というか聞きたいことが山ほどあるんだ。いいか?」
「(一)私をご指名とは。いいですけど、ここで質問されてもいいんですよ?それとも、できない理由でもあるんですか?」
「(烏)それは……」
「(一)いいでしょう。あなたには知られてしまった、お仲間はまだ知らないでしょうがここだけの話で教えましょうか。鬼塚。今日は帰りなさい。」
「(鬼)社長っ……わかりました。失礼します。」
「(一)鬼塚がマンション建設を成功させた2ヶ所になぜ前の住民が少ないのか、あと桃太郎君は何者なのか。知りたくないかい?」
「(桃)俺が?何者か?俺は桃太郎だけど……え?」
「(烏)おい、よせ。」
「(一)そうさ、私は君が何者か知ってるんだ。」
「(烏)よせって言ってんだろぉぉぉ!」
「(桃)なんだよ、教えてくれよ。俺は……なんかわからんけどよ、俺は俺がわからんのが嫌なんだ。」
「(一)ほら、本人もそう言ってる。じゃあいいじゃないかぁ。」
「(?2)そこまでだ。」「(?3)そこまでよ。」
「(全員)っ!!?」
「(一)あなたはっ!」
「(桃)じっちゃん!ばっちゃん!なんでここに!?」
「(一)親父!お袋!え!?」
「(じ)桃がマンション建設の話があるとか言っててな、会社名聞いてこっそり来ることにしたんだ。そしたら違う方向に話が行ってな。」
「(桃)じっちゃん、俺は……俺は何か知ってるのか?」
「(じ)そうだな、まずわしのことから話そうか。一護も知らない話だろうからな。」
〜
(じ)
わしは学生時代は研究職を、卒業して10年くらいしてから研究職を辞め会社を立ち上げた。
それがデーモンアイランドだ。研究は辞めたくなかったが会社が軌道に乗れば自由にできるからいいかと思ったよ。
軌道に乗って5年くらいして婆さんと結婚して、一護。お前が産まれたんだ。そして10年してわしは当時の部下に会社を任せた。
その後すぐだよ。事故にあって一部記憶を無くしたのは。会社をやってたことは覚えていたが、研究のことだけが思い出せなくてな。
きっかけは桃じゃよ。21年前に一護が桃を送ってくれただろ?あそこに手紙が入ってたんだ。お前の字で【[お父さんお母さん元気ですか。山梨県産の桃を送りました。近いうちに息子と一緒に帰ります。]
[この桃の中の1つだけ遺伝子組み換えがされています。]】とな。
遺伝子組み換えという言葉が妙に引っかかって、その桃は残しておいたんだ。そしたら桃太郎が産まれ、わしの記憶も戻ったんだ。
わしは人以外から人を造る研究をしていたことをな。まず手始めにやったのが桃だ。それをまさか一護がやってるとは。さすがに桃太郎に親はいないなんて告げるのは出来ないからな。産まれた直後に死んだことにしたよ。あの時、研究は終わりにしたと思ったけどな。詰めが甘かったよ。
〜
「(じ)それで何故ここにいるのか。桃太郎とデーモンアイランド。思い出したことで繋がったものが出会うと何か起こる気がしたからだよ。案の定起きたから来てよかったよ。この町の前に1ヶ所マンション建設に失敗している。しかしその前の2ヶ所は成功しているが再開発前の住民がほとんど居ない。それはマンション建設と偽り、マンション型の研究所を作っていたからだ。そうだろう、一護」
「(一)クソッ、親父……全部話しやがって…」
「(じ)わしが話さなくても烏丸くんが話してただろ。」
「(烏)あぁ。」
「(一)桃太郎が首から下げてる銀時計を見て少し不安はあったんだよな。あれは親父が特注で作った時計だから。まさかほんとに関係があるとはな……チーム名聞いた時も内心驚きしかないよな、だって桃太郎の被験番号だしな。M4ってさ。」
「(じ)なぁ一護。もう終わりしないか?事業拡大と言いつつ悪いことに手をつけ始めてるんだろ?会社を畳んで帰ってこい。」
「(一)俺は帰らないよ、すぐにはね。研究所の部分をリフォームして、不動産屋に管理人募集してからにするよ。もうあんな場所は要らないんだ。」
一護は一通りのやるべき事を終わらせた後、親元へ帰省し、果樹園を始めた。
桃太郎含めた4人組のM4は解散し、同じ町で変わらぬ日常を過ごしている。
結局桃太郎自身は自分が研究の末の失敗作だということしか分からなかった。
桃太郎は一護に聞いた。
「(桃)なんで遺伝子組み換えした桃をじっちゃんのところに送ったの?」
「(一)成功したものはめちゃくちゃ糖度が高くなってるんだ。放置して大きくはならない。もちろん親父に送ったのも成功した桃のつもりだった。まぁ、手違いだな。」
偶然が重なった結果の出来事であった。
fin.
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