第5話 新たな一歩

「荘志くん、お疲れさま!」

「おう、お疲れ! 今日も疲れたなぁー」



 それから、荘志と美琴の新たな夏休みの日常が始まった。


 朝から自習室に行き、二人は隣の席で勉強をする。

 そして、荘志は美琴に勉強を教えてもらう。

「わりぃ、これどうすればいいんだ?」

「これはね、公式を使って……」

 美琴の教え方はめちゃくちゃ上手だった。基礎があやふやな荘志にも、しっかり丁寧に教えていく。

「これで解がでるよ」

「なるほど! ――あれ、でもこれ答えが違う……」

「えぇ? ……あ、計算ミスしてた! まってまって……!」

 時々出る美琴のドジも健在だった。

「美琴って、めっちゃしっかりしてるけどたまにドジだよな」

「もう! からかわないでよぉ!」

 美琴は顔を赤くして言う。


 午前中の勉強が終わったら、昼は二人で美琴の手作り弁当を食べる。

 美琴の弁当のクオリティーは毎回目を見張るもので、とても美味しかった。ちなみにあれ以来、砂糖と塩を間違えるようなおっちょこちょいもない。

「……美琴、これ絶対作るの大変だよな」

「ううん! 全然だよ!」

 美琴はなんでもないように言うが、きっと凄く手間がかかっているのだろう。

「何とお礼を言えばいいのか……。まじでありがとな、美琴」

「いえいえ! 気にしないで!」

 荘志は感謝の念に堪えない気持ちだった。


 昼ご飯を食べた後は、また夜まで勉強をする。



 そして、辺りが真っ暗になった頃、

「じゃあな! 気をつけろよ!」

「ありがと! じゃあね!」

 荘志は美琴を駅まで送って別れる。


 そんな夏休みの日常が、始まった。


 部活を引退して、喪失感の塊だった荘志の日常は、美琴との出会いによって一変した。

 毎日が楽しい。

 可愛くて、しっかりしていて、頭が良くて料理も上手い。そして、たまにドジな一面を見せる美琴。また、


『きっと、それだけ頑張ってたんだよね。すごいかっこいいと思う!』


 美琴のあの言葉は、今でも荘志の心を元気づける。


 荘志にとって美琴は、まさに暗闇に射す一筋の光のような存在だった。


 そんな美琴をのことを、荘志がのは当然だった。


 美琴がとにかく愛らしい。

 美琴ともっと色んなことをしたい。美琴と付き合いたい。美琴の彼氏になりたい。

 荘志は妄想を広げる。


 でも――、

 ――今の俺には、釣り合わない。あんな完璧でかわいい女、俺には不釣り合いだ。


 荘志は本心からそう思う。


 ――俺は野球しか取り柄がなかった。野球を辞めた今の俺は、ただの馬鹿でしかない。こんな俺が美琴と付き合うなんて、不相応にも程がある。

 第一、今はお互い勉強をしなくてはならない。


 それでも・・・・


 ――美琴が、好きだ。


 この気持ちは、嘘じゃない。


 荘志は胸の奥に滾る気持ちと共に、力強く前を向く。



 ――絶っっっ対に、美琴に釣り合う男に成ってやる……。



 荘志の中に、『甲子園』以来の、新たな夢が生まれた瞬間だった。





「美琴! 俺、志望校決めた!」


 荘志は翌日、開口一番に言う。


「え! どこ?」


 荘志はの名前を言った。


「え、私と一緒……!? 荘志くん、本気?」

「ああ。本気だ」

 荘志は力強く言う。


「俺、死ぬ気で頑張るわ。甲子園には行けなかったけど、今度の夢は絶対に叶えてみせる」


 荘志の顔には、今までにない輝きが灯っていた。

「……もう! 分かった。私も協力する……!」

 美琴は素っ気なく言いつつも、どこか嬉しそうだった。


 こうして、『好きな人と同じ大学に行く』という新たな夢を持ち、荘志の夢追い人の姿は完全復活した。

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