第3話 ドジ

「改めて、白木美琴です。よろしくね」

「おう。えっと、小高荘志だ。よろしく」


 二人は図書館の飲食スペースで、机を介して対面していた。


 ――流石ナンパされるだけあるな……。めちゃくちゃ美人だ。

 荘志はつい、そんなことを思った。


 純黒の肩まで伸びる髪に、澄んだ二重の目。色白な肌に、スラリとした手足。痩せているが、出るところはしっかり出ている。

 これは――、超高校級の美少女だ。


「えっと、それで、なんの用だ?」


「――!?」

 ほぼ初対面にも関わらず、いきなり荘志に名前で呼ばれた美琴は顔を赤らめる。


「……?」

 対して荘志は、無頓着な顔。

 荘志の女性遍歴は小学校で止まっていて、これが普通だと思っていた。


 美琴は仕切り直して言う。

「……あ、えっとね。お礼しようと思ったんだけど、何をしたらいいのか分からなかったから、お礼になるか分からないけど……」


 そう言って美琴は、お弁当箱を差し出す。


「そ、荘志くん? いつもお昼コンビニで買ってたと思ったから、もし良かったら食べて……!」

「え……! いいのか? 俺ほんと大したことしてないのにお弁当なんかもらっちゃって」

「荘志くん謙遜しすぎ! 私の大ピンチを助けてくれたんだよ!? これでも全然足りないくらいだから!」

 美琴は両手を腰に当てて言う。


「そっか……じゃあ有難くいただく。今食べてもいいか?」

「……まだ十時だよ?」

「お腹空いちまった」

「早すぎでしょ! まあ別にいつ食べてもらっても構わないけど……」

「ありがとう!」

 荘志は元野球部らしい食欲を全面にして言った。


 荘志は弁当箱を開ける。

「めちゃくちゃ美味そう……」

 中身はハンバーグ弁当。シンプルではあるが、とても手の込んでいるように見えた。


「いただきます!」

 荘志はハンバーグを口に入れる。

 口に入れた途端、ジューシーな肉汁が口の中に溢れる。肉はふわふわで、柔らかな食感。ソースとも相まって、肉のうまみが口を支配する。


 ――美味すぎる。


 これは遥かに女子高生の作るお弁当の領域を超えている。


「どう……?」

 美琴が心配そうに聞く。

「高級レストランくらい美味い!」

 荘志は無邪気な笑顔で言った。

「それは流石に言い過ぎ!」

「いや、まじで」


 荘志は他のオカズにも手を伸ばす。唐揚げ、玉子焼き、きんぴらごぼう、切り干し大根……、どれも味は一級品だった。


 だが、唯一――、


「しょ、しょっぱ!」


 肉じゃがを口に入れた時、荘志はつい正直に言ってしまった。


「え!?」

「い、いや、なんでもない」

 荘志は咄嗟に誤魔化したが、美琴は焦りながら、まだ手を付けていなかったじゃがいもの破片を摘む。そして、


「し、しょっぱい!」


 美琴は顔を赤くする。

「え、まって、砂糖と塩間違えた!? 嘘でしょ! 最悪、ごめん! まって、超恥ずかしい!」

 美琴はあたふたと焦りだす。

「これはこれで美味しいよ」

 荘志は笑いながら、少々しょっぱい肉じゃがを食べ進める。


「もう……、さいあくだぁ」


 顔を真っ赤にして恥ずかしがる美琴に、こんなかわいい所もあるんだなぁ、と荘志は思った。

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