エピローグ

「……お前、それ、どうしたの?」


 出社すると真っ先に同僚に言われた。

 悲しみに咽び泣いた夜も明ければ、出社なのが辛いところだ。


「あ、分かった。例のチャップルの子が流れたんだろ? そうなんだろ?」


「……まあ、そんなところ」


「え? あ、マジなの? なんていうか、その、マジごめん。あー、あれだ! 今日、召し奢るわ! パーッと飲んで忘れようぜ!」


「いや、悪い……」


 失言を誤魔化すように背中をバシバシ叩く同僚。金欠だって言ってたのに、そうしてくれる辺り、悪い奴ではないのだが今日はその誘いには乗れない。断りを入れようとしたところに。


「あ、おはようございます!」


 経理の道谷さんと出会う。


「お。トモカちゃん、おはよう。今日も可愛いね」


 緩んだ笑顔になる同僚。その横を通り過ぎ、道谷さんは俺の元へ寄ってくる。


「今夜、楽しみにしてますね?」


 そう言うと去って行った。


「は? おま、どういうこと?」


「なんだ、まあ、先約があるから、今夜は無理ってことで」


「おいおい! ふざっけんなよ! ちくしょう!」


 頭を抱えて絶叫する同僚。


「けどまあ傷ついたのは傷ついたから飲みは今度、奢ってくれよ」


「誰が奢るか馬鹿野郎! 全部の記憶吹っ飛ばすまで付き合ってもらうかんな!」


「へいへい」


 騒ぐ同僚を尻目に、デスクに向かう。

 涼花のことは決して忘れないんだけど、それはそれとして俺も前を向いて生きようと思う。

 新たな決意を胸に灯す。

 そんな俺の目は赤く、そして腫れぼったくなっていることだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元カノと『七日間だけ』のマッチングをした。 人間 越 @endlessmonologue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ