第四話
二十二時。今日も通話の時間がやってくる。
三日目にもなると不安はなくなり、純粋に楽しみなっていた。
「はい、もしもし、お疲れー」
『お、お疲れ様です。……わ、なんか社会人っぽいね』
「へ、そうか? ああ、いや学生だと電話の挨拶にお疲れ様です、とかはないか」
意外なところで涼花の時間が高校時代で止まっていることに気づかされる。
「……ってそういえば涼花はこの通話以外の時間何してんの?」
『え? 何もしてないよ』
「何もしてないのか。そうか……じゃあニートか」
『それは違うと思う。そもそも働く必要がないし』
強い否定だった。プライドが許さないのか。
しかし、こちとら働く社会人。働かなくていいなんて聞かされれば穿った捉え方をする。
「なんだよ、勝ち組かよ」
『いや、幽霊だよ! もう死んじゃってるよ!』
そんな幽霊ジョークも挟めるようになった。
「そういえば、涼花は何になりたかったんだ? いや変なこと聞いたか」
『気にしすぎだよ。んー、将来の夢か……お嫁さん?』
「それは十年前でもイタかったと思うぞ」
『辛辣だなぁ。罰当たるよ』
「ごめんごめん。愛ゆえの言動ってことで」
『うわ、雑……。あんまり軽々しく愛を囁かないでくれます?』
「お前が言うか。高校時代にべたべたくっついてきたお前が!」
『さんざんあしらわれてもう擦れちゃったんですー』
「う。それは本当に悪かったって……」
『でもそっか。将来の夢ねー。あんまり考えたことなかったかも。まあ、会社に入ってとは考えてたけど、でもリアルに早くに奥さんになって主婦だと思ってた。キャリアウーマンとかはカッコいいけど、大変そうかなって』
「なるほどな……」
『まあ進路選択迫られる前に死んじゃったしね。ある意味、ラッキーラッキー』
☆ ☆ ☆
四日目。
この日は仕事が早く終わり、取引先と飲みに行く運びになった。しかし、早いタイミングでお開きになり、なんとか二十二時には間に合った。
良かった! ちゃんと涼花と通話が出来る。
『もしもーし』
「もしもひ……うぷ」
『あれ、飲んでる?』
「少しだけね。走って返って来たからうわ、一気に酔いが回ったな」
『もう、大丈夫? お水飲む? と言っても汲んであげられないんだけど』
「大丈夫、大丈夫。それにちゃんとお開きになったから。別に不自然に抜け出してきてないよ」
『え? ああ、うん。そこは約束守ってくれてありがと……』
『へえ、でもいいなー、智也はお酒が飲めるようになったんだー。ねえねえ、どんな味?』
「好きだ」
『はえっ!?』
「涼花ぁ、本当に好きだ」
『ちょ、ちょっと智也? も、もう照れるな……私だって好きなんだよ』
「ありがとうな」
『う、うん……;』
「こうしてまた声が聞けて、喋れるなんて…………本当にありがとう、涼花のおかげだ」
『はぁ、智也は酔うとこうなるのか。そっかぁ……』
「好きだぁ! 愛してる、涼花ぁ!」
『……もうべろべろじゃんね。早いけど、今日はおしまいにしよっか』
「ほんとうだぞ! 大好きなんだぁ! 涼花だけ! 涼花だけを愛してる!」
『はいはい。私も。私だって大好きだよ! ちょう、愛してる! ……おやすみ』
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