第4話 世界は弱肉強食なんですよ、ツバメ?
次の日。【
「うーん、どれがいいかなあ。ドラゴン退治にしようかなあ」
「……あのですね、ツバメ。物事には順序があるんですよ。剣でも魔法でも、最初は簡単なところから始めて、徐々に難しくしていくでしょう? そういうことですよ」
「うんうん、なるほど。よーし、それじゃあ早速受付嬢さんに、ドラゴン退治の依頼受注を相談しに行こーっと!」
「待ちなさい待ちなさい!」
わたしはツバメの藍色のポニーテールを掴んで、彼女の歩みを無理矢理止めます。ツバメは驚いたように振り返りました。
「な、何するんだよう、シラサギ! 折角頑張って結んだ髪型が崩れちゃうよー!」
「わたしの話を聞いていましたか? 桃色スライムと戦うので精一杯な我々がいきなりドラゴンと戦ったら……」
「戦ったら……?」
「……逆にわたしたちが、ドラゴンの餌になりますね。昨晩からの逆転現象です」
「だいぶ嫌な展開!」
「世界は弱肉強食なんですよ、ツバメ? もっと簡単なやつにしてください」
「ええー、そしたらどうしよう……あ、これはどう?」
ツバメは一つの依頼を、すっと指差しました。
「えーと……『ダンジョン内の落とし物探し』、ですか?」
「そうそう! この近くにあるダンジョンだし、多分いるモンスターもそんなに強くないはずだよ! 何より落とし物をした人が困ってるだろうし! これにしようよ、シラサギ!」
「まあいいですけれど」
「やった! そしたら、受注してくるねー!」
ツバメは笑顔になって、小走りで受付の方に向かっていきました。わたしはそっと一息ついて、他の依頼を眺めます。
「……すみません、ちょっといいですか?」
「ん?」
声をかけられ、わたしは視線を動かします。そこには三人の冒険者が立っていました。そのうちの一人は、確かに見覚えがありました。
「あなた、昨日の……」
「覚えていてくださったんですね……! あの、昨日は助けてくれて、ほんとにほんとにありがとうございました!」
「別にいいですよ、頭下げなくて。わたしが勝手にやったことですし」
「えっと、それで、もしよかったらなんですが……私たちと一緒に、パーティーを組んでくれませんか?」
「へ? わたしが、ですか?」
「そうです……! 昨日の麻痺魔法、すごかったです。お姉さん、多分強い魔法使いなんですよね? 私も魔法使いなんですけど、全然まだ未熟で、誰かに魔法を教わりたくて。だから、一緒に旅をしたいなって思ったんです!」
少女は目をきらきらさせながら、熱弁します。わたしはちらりと、受付の方に目をやりました。ツバメはわたしの状況に気付いていないようで、受付嬢と何やら会話を交わしています。
わたしは三人の方に視線を戻し、そうして微笑みました。
「お気持ちはすごく嬉しいです、ありがとうございます。ですがわたしには、弱っちくて声がでかくてちょっと馬鹿だけれど……最高で最愛の相棒が、既にいるので」
「そうだったんですか……残念です」
「ごめんなさい、期待に添えなくて」
「……いえ、大丈夫です! お姉さんも、冒険頑張ってくださいね」
「ふふ、ありがとうございます」
わたしは三人に向けて手を振ります。彼女たちも手を振り返してくれ、そうして去っていきました。
「……あれ、シラサギ? 何か話してたの?」
振り向くと、そこにはツバメの姿がありました。わたしはにこっと、笑いかけます。
「何でもありませんよ。依頼、受注できましたか?」
「うん、できたよー! 早速向かおう、シラサギ!」
「望むところです」
わたしとツバメは目を合わせ、ハイタッチします。ぱあん、と小気味のいい音が、ギルドに小さく響きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます