第3話 え、な、何のことかなー?

「うーんっ、ドラゴンのお肉、おいしーっ!」


 宿屋にて。わたしとツバメは、一緒に夕ご飯を食べています。


「確かにすごくおいしいですね、これ。ところでツバメ、わたしの器に盛られたこの大量のサラダについて、何か説明はないんですか? お手洗いから戻ってきたらこうなっていたんですけれど」


「え、な、何のことかなー? あれじゃないかな、宿屋のおかみさんが今日はそういう気分だったんじゃないかなー?」


「およそ普段の二倍の量、そして野菜嫌いのはずのツバメのサラダの器は既に空っぽ。ここから導かれる結論は、割ともう見え透いているような気がしますけれどね?」


「……あっ、見て見てシラサギ!」


「何ですか、急に虚空を指差して」


「ほら、沢山の空気!」


「おお、余りにも稚拙すぎる話題逸らしに何というかびっくりしちゃいました。かなりの衝撃です。衝撃をおかずに白米が進みそうです」


「よかったね、シラサギ!」


「はあ、まあ別にいいですけれど……」


 わたしは諦めて、サラダをもしゃもしゃと食べ始めました。


「そういえばシラサギ、明日の依頼は何にしようか?」


「桃色スライム討伐でよくないですか?」


「だっ、だめだよ! 時には冒険しなきゃ! このままだと私たちは、永遠に桃色スライムさんと戯れるだけの冒険者になっちゃうよ!」


「別によくないですか?」


「よくないよ!」


「まあツバメの気持ちはわかりました。そうしたら明日は、黄色スライム討伐の依頼をこなしましょうか」


「シ、シラサギ! この世界のスライムさんは色が変わっても戦闘力は何ら変わらないことを踏まえると、零点の回答だよ!」


「黄色スライムの色彩濃度の個体差、調べたかったんですが……」


「その不毛な趣味は、今すぐゴミ箱にポイしてほしいな!」


「あはは、冗談ですよ。そうしたら明日は、少し難しめの依頼にチャレンジしてみましょうか」


「わーい、そうする!」


 ツバメは顔を綻ばせました。わたしはそんな彼女に微笑みを返しながら、ようやく三分の一くらいになったサラダとの戦いを再開するのでした。はあ……


 *


 夜、灯りを消した部屋にて。一つだけのベッドに、わたしとツバメは横になっていました。


「……ねえねえ、シラサギ」


「どうかしましたか?」


「改めて考えてみるとさ、ほら、私たちって幼なじみだとは言え、もうそこそこ大人な年齢じゃん?」


「それはそうですけれど。何ですか、日中の大人っぽくなりたい話の続きですか?」


「違う違う! 要は何が言いたいかというと、その……二人で一つのベッドって、ちょっと狭いんじゃないかな? 二つベッドがある部屋をお願いした方がいいんじゃないかな?」


「弱小冒険者のわたしたちに、それは難しいですよ。こっちの方が安いしいいじゃあないですか」


「うう、まあそれはそうなんだけれど……でも何というか、プライベートな空間が侵食されている気がするよ!」


「気のせいです、気のせいです! ……ぎゅむー」


「ほらこんな感じ! こんな感じでシラサギ時々抱きついてくるじゃん! 何だかドキドキしちゃうんだけれど!?」


「これしきでドキドキとか、ツバメはまだまだお子様ですね。もっとドキドキすることをしてあげてもいいですよ?」


「も……もっとドキドキすること!? 何だろう、別にされたい訳じゃないんだけれどすごく気になっちゃうよ!」


「そしたらやってあげますよ……ふうーっ」


「ひゃうう! み、耳に息を吹きかけるのは反則だよ、シラサギ! ぞわわーってなったよ!」


「ほら、もう一回やってほしければ、可愛くおねだりしてみてくださいよ」


「いや別にやってほしくないよ! 何でそんなに上から目線なの!?」


「このくらいの挑戦もできないなんて……ツバメはまだまだですね」


「むむっ! そんなことないもん、できるもん! ……お願いだよう、シラサギ?」


「おおお、可愛いです! ではもう一度……ふうーっ」


「ぞわわー! しまった、どう考えても会話に乗せられてしまった!」


「……ふふふっ」


 わたしは思わず笑ってしまいます。それからそっと目を閉じて、口を開きます。


「明日も早いですし、そろそろ寝ましょうか。おやすみなさい、ツバメ」


「そうだね、おやすみ! いい夢を」


 そうしてわたしたちは、ようやく眠りにつくのでした。

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