☽ 2 At night 〜夜間〜
☽
夜、九時頃。
……少し早いけど、もう出よう。幸はそう考えて、手に握っていた、三つのボタンがついた機械を起動させる。――メイハヴ・ノレーニョ達は「ネープ」と呼ばれるその機械の機能を使い、本部のある施設へと
ネープの三番目のボタンを押し、
幸は目を開け、そこが自分の部屋でなく、カプセルの中であることを確認する。すぐに、右脇のボタンを押し、メイハヴ・ノレーニョの「
「
時間が早いせいか、外のロビーにはあまり
上の階には無数の扉があった。幸が向かうのはその中の十二時の方向にある扉。……けれど、今は時間もあるので急ぐ必要もないだろう。
ふと、幸は前の方へと目を向けた。そこには柔らかな笑顔を向けながら、扉へ向かう人達に挨拶をする女性がいた。黒の、二重の丸い瞳と、長い髪を三つ編みに結んだ彼女はいかにも優しい雰囲気を
「
その女性を見た瞬間、幸は駆け出していた。
「ゆきちゃん」
彼女――音希の方も嬉しそうに、両手を広げて迎え、胸へと駆け込んできた幸をそのまま優しく抱いた。
「今日、リーダーは?」
「あぁ、ディックスはね、ちょっと『
メイハヴ・ノレーニョには二人のリーダーがいる。そのうちの一人であるディックスはメイハヴ・ノレーニョ達の組織「ハノレイ」を中心となって、まとめている人物である。音希はそのディックスを支えるもう一人のリーダーだった。そして、彼とはとても仲
女リーダーでありながら、音希はそんな素振りを見せず、誰にでも優しく接していた。その人の良い性格から、「家族」のような存在として慕われていた。特に、幸や
幸も音希のことをまるで同じように慕っていた。……普段、
「ゆきちゃん、今日はどうだった? 昨日のこと、聞いてたから、ちょっと心配しちゃって」
音希に聞かれ、幸は「大丈夫」と微笑んでみせた。
「あのね、今日はそのことでとっても親切にしてくれた人達がいたの。 それで、その人達はね……――。 ――あ……あれ? どんな〚
幸は昼間に会った二人のことを音希に話そうとしたが、どうしても〚
けれど、話の内容は
「あ、でもね、聖弥のことでアドバイスもらったのは覚えてる。 確か……『ガツン』と猛アタックすればいいって言ってた!」
音希がくすくすと笑いながら、何度もうなずいた。
「そうねぇ。 ゆきちゃんはちょっと引っ込み事案なところがあるし、せいちゃんは押されたら弱そうな感じだものね。 ひょっとすると、その人達のアドバイス、適格かもしれないわね。 ……あ、噂をすれば、せいちゃんよ」
その時、二人の横を、不機嫌そうな聖弥が通り掛かった。聖弥がちらりと幸を見るが、すぐにそっぽを向いてしまう。
音希はその様子を見て、幸に向かっていたずらっぽく笑いながら言った。
「気にしちゃだめよ、ゆきちゃん。 せいちゃんは素直じゃないんだから」
彼女のその言葉が耳に入って来たのか、聖弥がぴくりと肩を震わす。そして、真っ赤になった顔で振り返り、吐き捨てるように叫んだ。
「音希かあさん、うるさいな!」
そして、踵を返し、荒っぽい足取りでその場を去って行った。
幸は音希と顔を見合わせ、二人で笑い合った。
「さて、と。 お話している間に、いい時間になったわね。 ゆきちゃんの今日の
ふと、腕時計を見た音希がそう言った。そして、最後に幸をもう一度抱きしめ、離れると頭を優しく撫でた。
少し名残惜しく感じながら、幸はうなずいてみせると、十二時の方向の扉に向かって歩き出した。
「せいちゃーん! あなた、まだ内容聞いてないでしょ! 戻ってきなさーい!」
少し歩いたところで、音希の声が後ろから聞こえて来た。
幸から大分離れたところにいた聖弥がぴたりと立ち止まる。そして、先程よりも不機嫌そうな顔で元来た道を歩いて来た。
幸はそんな聖弥とすれ違った後、またくすりと一つ笑いをこぼした。そして、彼よりも先に、扉の向こうへと足を踏み入れる。
中には円形に置かれた複数のカプセルがあった。幸は一人用のカプセルの側に立つと、その横にあるパネルを操作してその扉を開けた。足をぎりぎり伸ばすことができるくらいの小さなカプセルに、幸は横たわった。
深呼吸をして、幸は脇のボタンを押して、カプセルの扉を締める。そして、目を閉じると意識を遠のかせていく。
その時、ピピピと電子音が鳴る。
――合図だ。幸はそのまま意識を手放した。
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